第3章 能力と剣士
実弥と同じく優しい爽籟が頭から落ちないよう細心の注意を払って綺麗な羽で覆われた頭を撫でると、心地良いというように擦り寄せてきた。
「ありがとう。爽籟君、お父さんの情報を探しに行ってくれてたんだよね?私、鬼殺隊の剣士になってお父さんを止めるって決めたの。その為に柔軟してるんだけど……見ててね?」
爽籟を頭に乗せたままであってもほぼ体は動いていないので、爽籟に何の影響も出ずキョトンだ。
「これが限界!」
「……嘘ダロ。……応援シテル!ガンバレ!」
可愛らしくも頼もしい応援に支えられ、風音はもうしばらく柔軟に勤しんだ。
数時間ほど爽籟の応援のもと懸命に柔軟に勤しんだ風音は、夜から警備に赴くであろう実弥のために夕餉を作ろうと台所に立っていた。
「実弥さんは何が好きなんだろう?精進料理……だと力出ないかな?うーん……お肉とかお魚とかあんまり食べてなかったから加減が……」
「不死川!在宅だろうかっ?!」
おはぎ以外に実弥の好きなものを知らずウンウンうなっていると、玄関からも離れている門の外から驚く程に大きな声が響いた。
門の外からなど普通なら声が届かないはずなのに、不思議と明瞭に聞こえ風音は肩をびくつかせる。
「あの声は杏寿郎さん……?どうしよう、私が出てもいいのかな?でも出ないと実弥さんが起きちゃいそうだし……杏寿郎さんなら……出ても怒られない?」
杏寿郎でなくとも実弥がそれくらいで怒ることはないだろうが、何分居候の身の風音はどこまで踏み入っていいのか判断がつかないのだ。
それでも部屋で休んでいる実弥を起こすのがしのびなかったので、いそいそと玄関へ急ぎ門へと手を掛けてそっと開いた。
そこにはやはり頭に思い浮かべていた人物、杏寿郎が何故か笑顔のまま仁王立ちで佇んでいた。
「こんにちは、杏寿郎さん」
風音がぺこりと頭を下げると、先ほどまでの溌剌とした笑顔がふわりと綻び、何とも優しい笑顔で応えてくれた。
「風音、一昨日ぶりだな!元気そうで何よりだ!不死川は在宅だろうか?」
「杏寿郎さんもお元気そうで安心しました。えっと、実弥さんはお部屋で休んでいるかと……杏寿郎さんならお家の中で待っていても怒らないと思うので、お家の中で待たれますか?」