第20章 強化訓練と育手
やはりいつも通りだった。
実弥を傷付けたくないと翳らせた表情は即座に霧散し、今は見る人が見れば狂気と映る笑みを浮かべている。
「実弥君!あのね……えっと……」
かと思うと木刀を両手で握り締めてモジモジしだし、顔を真っ赤に染め出した。
こうなった時に望まれることは二つ三つくらいしか思い当たらない。
実弥は静かに待ち、何を望まれてもネジが吹き飛ばないように精神統一を行う。
(抱き締めてほしいとか接吻して欲しい……痕付けて欲しいって願うだけでまだ顔真っ赤にすんのかよ。慣れる日きてくれるんだか微妙な……)
「い、生きて帰ったら……たくさん口付けしてたくさんギュッてしてほしい。痕も……付けて欲しい。それでね、サッちゃんと一緒にお散歩行って、ヒイちゃんラギちゃんも一緒にご飯食べるの。そしていつの日か……実弥君との赤ちゃんを授かれたら……いいなって」
あまり願いを言わない風音のたくさんの願い。
どれも他愛ない、もっと願えばいいのに……と思っていたのだが、最後の願いが紡がれた瞬間、実弥の手から木刀が音を立てて地面へと転がり落ちた。
固まり立ち尽くす実弥の反応がどういった感情からくるものか分からず、風音は戸惑い顔を赤らめたまま木刀を構え直し、玖ノ型を繰り出す準備を整える。
「夙の呼吸 玖ノ型 星の入東風(いりこち)」
実弥の指摘を克服するべく、総力戦で勝ち生き残るために鬼を相手取る時と同じ高さに跳躍し同じ威力の技を実弥に放つ。
視線を外さず体を捻っている間にも実弥は木刀を片手に技の構えを取り、放たれてきた斬撃を全て薙ぎ払った。
そして風音が地面に降り立つ前に再び木刀を地面へと転がし、両腕を広げて風音の体を抱きとめた。
「風音、お前ってたまにすげぇ口説き文句言ってくるよなァ。赤ん坊がどうやって出来るかも知らねェクセに。だが……そうだな、俺もお前との赤ん坊授かって育ててェ。あとお前の願い全部叶えてやる」
実弥の瞳に映し出されたのは伸びた髪を変わらず団子に結い上げている風音の頭。
柔らかな金色の髪には緑と若葉色のリボンが揺れており、思わず表情が綻び頬が薄く赤く染まった。