第20章 強化訓練と育手
剣士たちの稽古の相手をするだけでも大変に違いないのに、同じ柱である風音の技の威力向上にも付き合ってくれると言う。
実弥に対して申し訳無い気持ちはあるものの、継子時代から変わらず手を貸してくれる優しさが嬉しく、また容易に夙の呼吸を繰り出した実弥が頼もしく、思わず風音は笑顔となった。
「ありがとう!皆さんのお稽古が一段落しているならばお付き合いしてもらえると嬉しいです!よし、やっぱり私が一番元気だから飲み物取ってくるね。実弥君も疲れているだろうし、ここで待ってて?」
再び引き止めるために握った手に風音が手を重ね合わせると、その暖かさに気が緩まったのか、実弥はすぐに解放して屋敷内に足を動かした風音を見送った。
「元気なんだか落ち着きねェだけなのか微妙なところだな。……?!何だァ?!お前ら……そんだけ元気なら……ってオイ!」
風音が屋敷内に姿を消した瞬間、剣士たち全員が起き上がり、実弥も驚くほどの速度で縁側から屋敷内へと駆け込んで行った。
「一人でこの人数分の湯呑み持つの大変だ。手伝わないと!」
「てか早く飲み物飲みたい」
「畳の上で休みたい!」
と各々の願望を叶えるために剣士たちは目を血走らせ物凄い勢いで庭から消えたことにより、そこに残ったのは実弥とサチだけである。
「……舐め腐りやがってェ。サチ、俺が風音と手合せしてる間、アイツらには基礎鍛錬させとく。サチはソイツらの上に順番に乗って負荷かけに行け。分かったな?」
「ワゥ!」
休憩時間は飲み物を飲む時間だけ。
剣士たちは風音と実弥が手合せをする間も休憩出来ると思い込んでいたようだが、実弥がそんな甘やかせをするはずがない。
屋敷内になだれ込んで行くほどの元気のある剣士たちを……休ませてやるほど甘くはないのだ。
「よしよし、サチはいい子だァ。風音の自己鍛錬にも付き合ってやってたもんな」
手入れの行き届いた白いふわふわな首元を撫でながら、賑やかに帰ってくる風音と剣士たちを密かに待ち続けた。