第20章 強化訓練と育手
「あら?フフッ、本当だ。さぁ、頑張って起き上がって下さい。滅殺もだけど、貴方にも生き残って欲しい。私が見た総力戦ではまだ一体の上弦の鬼しか確認出来ていないけれど、間違いなくたくさんの鬼がいるはずだから。一緒に頑張りましょ?」
地面に突っ伏したままの剣士の顔付近の地面に涙による水溜まりが出来つつあったが、風音の言葉に剣士は勢いよく起き上がり、しゃがみこんでくれている風音の手を握った。
「ごめん!柊木さんがせっかく未来を教えてくれてるのに、泣いてる場合じゃないよね!ありがとう、命を懸けて見てくれて。頑張ってくる!」
そう言って剣士は下がっていた目じりを引き締めて涙を拭い、実弥へと再び立ち向かっていった。
それとは反対に風音は一瞬悲しげに瞳を揺らせ、実弥に向かっては吹き飛ばされる剣士の背を映した。
(先が見えちゃった……鬼の大群に襲われて腕を失う先が……でも悲しんでる場合じゃない。私のお稽古がまだ出来ないなら……基礎鍛錬、打込み、型の反芻。後は実弥君にお願いして手合せしてもらわないと)
ただ皆を励ますだけでは自分の能力は向上しない。
ここで大人しく見守ることが柱の任を賜った自分のするべきことではないと、風音は縁側に上り基礎鍛錬を開始する。
風音のそれらの行動を一部始終視界の端に映していた実弥は僅かに目を細めて小さく息を零し、今し方木刀を振り上げてきた剣士数人を吹き飛ばした。
「アイツ……先見えちまったか。後で手合せ付き合ってやらねぇと」
実弥の声は風音に届いていないし、実弥が風音に起こったことを把握したのも気付いていない。
その証拠に黙々と基礎鍛錬をこなし……ついにはサチを背中に寝そべらせ腕立てを開始してしまった。
その様子は一心不乱に木刀を振り回していた剣士たちの動きを止めさせ、思わず注目してしまうほどのものである。
しかし実弥がそれを良しとするはずがなく、風音に意識を持っていかれていた者全てが、次の瞬間には地面に叩き付けられていた。
「お前ら余裕だなァ。そんな腕立てしてぇならさせてやる。地面に叩きつけられる度に腕立て……早くしねぇかァ!」
なんと地獄の無限打込みの他に地獄の無限腕立てが追加されてしまった。