第20章 強化訓練と育手
翌朝、二人はほぼ同時に目を覚まし、それぞれの部屋へと足を動かし隊服へと着替える。
そして風音はその上から割烹着を身に纏い、頭には三角巾。
さすがに実弥がそれを着るのは違和感が凄まじいので、羽織だけを脱ぎ握り飯をにぎにぎ……
風音に何だかんだ言いつつも実弥は元々面倒見がいいので、剣士たちの分も朝餉をこさえ、稽古に備えさせた。
「ひ、柊木さん!助けて!こ……こ」
「こ?」
「殺される!死んでしまう!も、戻りたくないぃ!」
備えさせた理由は稽古で扱き倒すため。
昨日より激しく厳しさの増した実弥の地獄の無限打込み稽古は剣士たちの体力のみならず、精神を大幅に削っていく。
こうして穏やかな笑みで手当てをしてくれる風音に、癒しや助けを求めなければやっていけないようである。
しかし穏やかに笑みを浮かべているといえど、風音は柱となる前は風柱 不死川実弥の可愛がる継子だった少女だ。
ヨシヨシと剣士たちを慰め匿うような人間ではない。
「大丈夫だよ!私も未だに実弥君相手だと傷だらけになりますから!頑張って?実弥君のお稽古の後は私との追いかけっこなので、実弥君に一太刀入れられると随分楽になるはずです!私、皆さんがお稽古に来てくれるの楽しみにしてます!」
「……はい!柊木さんと追いかけっこ楽しみに散ってきます!」
あまりにも自分の稽古に誰も来てくれず、ほんの少し寂しい思いをしている風音からの励まし。
これが意外にも実弥の稽古に役立ち、実弥がわざわざ引きずり戻さなくても剣士たちが嬉々として戻っていく。
そして打ちのめされ散り風音に癒され……を繰り返すこと十数回。
「テメェらァ!いい加減にしとけよ……いつまでも女に甘えやがって……あ"!風音、そいつは気絶したフリしてるだけだァ!手当てすら必要ねェ!」
一人剣士が戻り、それと入れ替わりにいつの間にか風音の目の前でうつ伏せに倒れていた剣士。
その剣士を起き上がらせてやろうと手を伸ばしたが、血管を顔に浮き上がらせた実弥の言葉に風音の手が止まり……剣士の肩がビクリと大きく震えた。