第20章 強化訓練と育手
例の剣士、牧野とのいざこざはあったものの、夕餉の時間は穏やかに過ぎ去った。
その後、勇に呼ばれ空き部屋で謝罪を受け謝罪を返し、亡くなってしまった弟の話を聞かせてもらった。
「実弥君は全部知ってても私の側に居てくれてたんだね。ありがとう」
現在、二人は寝室で布団の中で体を休めている。
いつもなら風音が先に眠りについているのだが、今夜は珍しく実弥が先に眠りにつき、風音の声は届いていない。
(こんなに近くにいてくれてる。私は優しい実弥君に何を返せるんだろう?勇さんにも……何を返せるんだろ)
勇の弟は一般人を風音の父親から庇い亡くなったと聞いた。
その時に父親が風音の名前を口にしていたのと、面影が酷似していたので、目の前の鬼が風音の父親だと気付いたらしい。
思い出すのも辛いはずなのに風音に弟の話をする勇の表情は穏やかで、ずっと笑みを絶やさなかった。
(私の周りは優しい人ばっかり。ねぇ、実弥君。私、優しい人たちをたくさん助けられるように頑張る。あのね……)
「ん…… 風音」
実弥を見つめ続け心の中で話し掛けていると何か伝わったのか、実弥は寝言で風音の名を呼んだ。
起こしてしまったかもしれないと固まったが、実弥から聞こえるのは静かな寝息。
そして穏やかでいつもより少し幼く見える寝顔が見えるだけだ。
(よかった。ねぇ、実弥君。私、ここでのお稽古が落ち着いたら柱の皆さんの稽古場にお邪魔しようと思う。手合せもだけど、皆さんのお稽古に参加して力量と能力の向上に力を注ぎたい)
起こしてしまわないよう、縁側と部屋を区切る障子から差し込む淡い月光に照らされ、キラキラと銀色に輝く髪をふわりと撫でる。
「綺麗。実弥君、私もっと強くなるから……それでね……実弥君や優しい人たちを……守りたい。実弥君……誰よりも愛しい……です」
銀色に輝く髪に眩しそうに目を細めたかと思うと、心身共に疲れていた風音の瞼はゆっくり閉じられ、やがて夢の中へと旅立って行った。
それと反対に実弥の目がゆっくり開き、風音の寝顔を瞳に映す。
「?…… 風音、お前が……愛しい」
計らずも同じ言葉を紡ぎ、二人はようやく眠りに落ちた。
互いに離れないというように身を寄せ合いながら。