第20章 強化訓練と育手
今の風音の表情や口調だけでは、剣士の言った言葉が聞こえていたのかは分からない。
分からないが、実弥が怒り、自分をこの場から遠ざけようとする行動から、何の話をしていたのかなど想像に容易かったのだろう。
これ以上剣士たちのみならず実弥にまで悲しい思いをさせてなるものかと、全てを背負うと宣言したのだ。
そんな風音がいつまでも剣士の近くで寄り添っている様が実弥にとって我慢出来るものでなく、早く自分の元へと手を伸ばしたが、その手が届く前に勇の声が実弥の鼓膜を刺激した。
「風音こそ父さんのことでこれ以上辛い思いする必要ないだろ……コイツのことは俺に任せて不死川さんと一緒に行ってくれ。俺も後で台所に行くからさ!俺たちのご飯なんだし、俺にも準備手伝わせてよ」
風音と視線を合わせるために跪いた勇に体をグイグイ押され、気が付けばいつの間にか同じように跪いていた実弥の胸元へと送還されていた。
「で、でも……ならせめてお名前教えて下さい!貴方のお名前!お名前聞かせていただいたらお夕飯の準備に向かいます!あ……実弥君、ちょっと待って!お名前だけ!」
有無を言わさず実弥によりヒョイと抱え上げられてしまった風音はめげることなく、例の剣士から名前を聞こうと肩口から顔を出して声を掛け続けた。
……その声が思いの外大きく実弥が顔を顰めているのに気付かぬまま……
「実弥君、止まって!お名前!」
「風音、コイツの名前は牧野だよ。ほら、行った行った!不死川さんの鼓膜破る前に」
「既に破れる寸前だわ…… 風音、名前分かったんなら大人しくしねぇか。大人しくしねぇと……接吻すんぞ」
ピタリ
実弥の言葉に風音は言葉のみならず体の動きも止めた。
そうして言われた通り大人しく実弥に運ばれる風音を見送り暫く……
「お前なぁ、いい加減にしてくれよ。これ以上あの子に罪無いことで責任負わせるな」
「ワンッ!」
「……ほらぁ、サッちゃんも怒ってるじゃん。大好きな風音と不死川さんを悲しませんなって」
「そんなつもりなかったけど……ゴメン。気持ちの整理着いたらちゃんと謝るよ。サッちゃんもゴメンな」
主想いのサチを一撫ですると、いつの間にか現れていたサチは返事をするように小さく鳴き二人の後を追っていった。