第20章 強化訓練と育手
「そもそもアイツはお前に殴られて当然なんだって思ってんだァ。その気がねェならそっとしとけ。……俺はすることあんだよ。お前らはどっかで適当に座ってろ」
ここに風音がいなくてよかった……そんなことを考えながら、オロオロする勇と視線を床に落とした剣士の横を通り過ぎる。
「どうしろって言うんですか?!俺だって立花みたいに考えられたらって思いますよ!でも血が繋がってて顔が似てるから……思い出してしまう。柊木さんの名前呼びながら仲間を惨殺するーーっ?!」
どうにか苛立ちを抑えて風音にしておくと言っていた夕餉の準備に取り掛かろうとしていたのに、例の剣士がよりにもよって風音 が一番好きだと言っている家の中で、風音に一番聞かせたくない言葉を吐いてしまった。
この場に風音は居ないとはいえ、聞こえてもおかしくない声量で叫ばれた言葉に反射的に反応し、気が付けば剣士の胸倉を掴みあげて壁に叩き付けていた。
「これ以上同じこと言わせんなァ!気に食わねェならここから……」
「実弥君?!どうしたの?!」
なぜ風音はこうも思うようになってくれないのか……
今に始まったことではないが実弥はそう思わずにはいられなかった。
もう少し長く風呂に入ってくれていたらいいものを……と思っても、出てきてしまったものは仕方がない。
剣士の胸倉を解放して崩れ落ちる体を放置し、再び悲しげに目を伏せてしまった風音に歩み寄る。
「何でもねェよ。稽古厳しいっつぅから扱いてただけだ。ほら晩飯の用意すんだろ。行くぞ」
小さく縮こまってしまった背を押して促してやると、風音はそれに抗うことなく頷いて台所へと歩き出した。
このままこの場から離れなくては……と実弥が心の中で思っていると……
「これからはもう情けなく泣かないし、しっかり貴方の感じていることを聞き、ちゃんとお返事します!だからこれ以上私のお父さんのことで辛い思いしないで……今まで目を背けていた分、ちゃんと向き合います」
風音が勢いよく振り返り、廊下に崩れ落ちた剣士の前で跪き宣言してしまった。