第20章 強化訓練と育手
稽古中、剣士たちに気を遣わせてはいけないと風音は終始笑顔を貫いていたが、ふと剣士たちの視界から外れた時に、地面へと視線を落としているのを実弥は何度か目にしていた。
どうしようもない現実に悩み悲しむ風音を放っておけば、また溜め込んで一人になった隙を見計らって一人で涙を流してしまう。
そうさせないために実弥は風音の部屋へと足を運び側にいたのだが、勇も同じく風音が胸を痛めていることに気が付き、風音の元へと足を運んできたわけだ。
例の剣士と共に。
「今は気ィ持ち直したから心配ねェよ。風音に伝えたいことあるなら直接伝えてやれ」
あからさまにホッと安堵の溜め息を零した勇には苦笑いを浮かべ、例の剣士には昼間の件もあるので、自然と実弥の視線や雰囲気が険のあるものとなった。
「で、お前は何でここにいんだよ?風音に言いてぇことあんなら俺が代わりに聞く。これ以上アイツの傷口抉るような真似は俺が許さねェぞ」
父親が下弦の鬼となったことを知り実弥たち柱に負い目を感じ、自ら頸を斬った際には壊れそうなほど泣き崩れた風音をこれ以上悲しませるものか。
ようやく笑顔の戻った風音を悲しませる奴は自分のところで食い止めると名乗りを上げたが、どうもそれをするつもりはないようで、例の剣士は気まずそうに視線を実弥から逸らした。
「ち、違いますよ!柊木さんを殴ったり責めたりしません。……実は風呂場で剣士全員から叱られました。女殴るとか剣士として以前に男としてどうなんだ、俺らの命の恩人に謝って来いって」
「他の奴らから諭されて仕方なくって謝んならアイツに謝ってくれんな。その姿見るだけで胸糞悪ぃ。お前にどう償えばいいかって悩んでるアイツに対して失礼にもほどがあるだろ。風音の悩みを増やすんじゃねェよ」
視線を逸らしたままの剣士の気持ちは実弥だって分からなくもない。
自分に痛みをもたらした存在が既にこの世になく、代わりにその存在の近しい者が現れたら恨み言を言いたくもなるかもしれない。
だが近しい者は近しい者なだけであって、痛みをもたらした張本人とは全く別の者だ。
分からなくもないが……同じことを実弥がするかと聞かれれば答えは否である。