第3章 能力と剣士
「昨日今日で決めることでもねェと思うが、そう思って決めたなら止めやしねぇよ。まぁでも、まずは雑魚鬼倒せるようになるのが先だ。鬼については追々話してやる」
そう言って実弥は風音の頬をキュッと摘み直すと、その指を離して大きな泡をたてている鍋の火を消しに動いた。
「あの!ちゃんと栄養付けて健康体になります!そうなったらお稽古付けて下さい。それまでに出来ることはないですか?骨々してても出来るような何か」
鍋の中の湯を急須に入れようとしている実弥からそれを取り、炊き上がったご飯の火も止めながら急須に湯を移し替える。
さすが幼い時から一人で家事をこなしてきただけの手際で昼餉の支度を進めつつ実弥に問いた。
全てを片手間ですませてしまう風音相手に手持ち無沙汰になった実弥は、行き場の失くした手を腰に当てて暫し逡巡……
「あ"ぁ"……大人しく薬作っとけって言いてぇとこだが、柔軟でもしてたらどうだァ?技出したり切り替える時に体が柔らかければ、手間取ることも少なくなるからなァ。無理して筋肉とか腱傷めんなよ?」
「はい!では実弥さんが休んでる時間に体を解してみます。あ、はい、どうぞ。お昼ご飯出来ました。いつもは色んな薬草も入れてましたが、今日は流石に入れてないので安心して下さい」
ニコリと微笑みながら発せられた余計な一言に実弥が戦慄した。
それでも恐る恐る口に入れると、存外美味しかったのでホッと息をついて完食したのは実弥だけの秘密である。
「痛い……自分の体の硬さに最早賞賛を送りたい気分。柔軟なんて生まれてこの方したことなかったから仕方ないけど……これは流石に酷くない?」
さっそく実弥に言われた柔軟を敢行するも、同じ姿勢で薬を作り続けてきた風音の体には果てしなくむずかしいものだった。
足を広げても全く開かず、前身を前に倒しても座ってる状態とさほど変わらない。
「……酷すぎて実弥さんに見せられな……あ!爽籟君!」
体の硬さに愕然としていると、開け放っていた縁側から爽籟が舞い込んできて、一目散に風音の頭の上に着地した。
「風音、大丈夫カ?オ前ノ父チャン……」
しなしなと元気なく頭にしなだれかかり、まるで帽子のようになってしまった。