第20章 強化訓練と育手
今ですら殴り付ける気は萎んでしまっているのに、総力戦が終わってからなどもっと萎み、それは見えないほどの感情になっているように思えて仕方なかった。
しかし総力戦から生きて帰れるようにと言霊を残してくれた風音の心を無下にできず、ぶっきらぼうだと分かりながらも言葉を紡ぐ。
「総力戦に勝てば階級なんて関係ありませんもんね。心置きなく夙柱様と風柱様の横っ面殴らせてもらいます。先に……ここで柊木さんの膝を地面に付けさせますけど!」
完全に隙をついたはずだった。
今は風音から先を送られていなかったし、目の前の二人の体からは力が抜けて木刀など下に下がっていた。
それなのに辺りに響いたのは風音が地に膝をつく音ではなく、木同士が激しくぶつかり合い、一つの木が地面に突き刺さる音だった。
「……自分の先も見えるんですか?」
「見えませんよ。皆さんの先を見て間接的に自分の先を見ることは出来ますが、私自身の先を見ることは出来ません。今は予備動作を見て動いただけです」
咄嗟に受け流された剣士の木刀はまるで計られたように誰もいない場所に突き刺さっており、思わず例の剣士やその場の剣士たちが身体を震わせ息を呑んだ……次の瞬間。
互いに先が見えていない今が好機だと言わんばかりに、勇を筆頭に声を上げた。
「い、今だ!かかれー!」
「うひっ?!さ、先を見ないとお稽古の意味が……あっ……ぶなかったぁ……?ひゃっ!」
突然の剣士たちの猛攻に四苦八苦していると体がくるりと回され、次に見えたのは『殺』と染め入れられた羽織だった。
どうやら先を見ていない状況での稽古ならば自分の領分だと、実弥が風音を背後に移動させて前に歩み出たらしい。
「まだまだ元気じゃねェかァ……偶然だなァ、俺も元気有り余ってんだよ!」
「て、撤退!撤退ーー!に、日輪刀を……ぎゃあああ」
風音が冷や冷やと見守る中、結局昼休憩まで時間が経過しても女剣士は現れず、実弥へと一太刀入れることの叶った剣士は一人として現れなかった。