第20章 強化訓練と育手
そしてあと一人。
常中を使いこなしている風音に必死に食らいついている剣士。
風音を殴りつけた剣士だ。
この剣士に関しては実弥の視線が恐ろしく……また、自分よりも弱いだろうと思い込んでいた風音の本来の力量を前に、引くに引けず食らいついている。
その剣士から風音へ、剣士全員が心の中で思っていたことを口にした。
雰囲気や口調にまだ刺々しさは残っているものの、心配してくれている剣士に風音は木刀を下ろして静かに答える。
「危険が……ないとは言えません。でも私の能力は慣れることが出来れば、ほんの少しであっても皆さんの命を繋げるお手伝いが出来ると思うんです。これが私の望んだ力の使い方だから最後まで貫きたい」
ふわりと穏やかな笑みを浮かべる風音を剣士は直視出来なくなった。
“皆さんの命を繋げるーー”
ということは、ぶん殴ってグチャグチャにしてやる……と恨み言をぶつけた自分の命も繋げようとしてくれていると言うことだからだ。
しかも死の危険と隣り合わせな力を使ってまで。
「嫌……じゃないんですか?俺は立花みたいに割り切れない。今までの感情をいきなりなかったことに出来るほど器用じゃないですし。そんな人間の命を助けるの……嫌じゃないんですか?」
「嫌なんて思うわけありません。貴方は仲間を心から大切に想える、底抜けに優しい方ですから。そんな方の命を繋げられるのであれば、少しの危険くらいなんてことないです。私、総力戦で必ず生き残るので、貴方も生き残って私を殴りに来て下さい。必ず」
挑発もなくからかいもなく、本心から言っているのだと今の風音の表情から嫌でも分かった。
真剣な瞳や強く握り締め震える拳がそれを物語っているからだ。
そんな風音にどう返事をしていいのか分からず押し黙っていると、剣士たちに喝を入れていたはずの実弥がいつの間にか風音の隣りに立ち、ポンと優しく頭を撫でてやっていた。
「だとよ。まァ今後一切風音を簡単に殴れるなんざ思うなよ。お前が殺気立ってコイツに近付いた時点で、俺が返り討ちにしてやらァ。それを覚悟の上で挑んで来やがれ」