第20章 強化訓練と育手
実弥が小声で剣士を窘め……脅している頃、風音は勇に手当てをしてもらっていた。
勢いで想いを叫び、勢いのまま想いを叫ばれた者たちの顔は同じく真っ赤である。
「あぁ……ごめん。不死川さんの発言に動揺しちゃったんだ。でもさ、風音はもっと自信持ちなよ。実は俺だけじゃないんだ、風音とお近付きになりたいって思ってる奴」
「いえ……その、私ね、実弥君に連れ出してもらうまでいた村では嫌われてたから……好きって言って貰えるの嬉しいんです。たくさんの方々にお近付きにって思ってもらえるなんて……夢みたい。勇さんも皆さんも私の宝物です」
ふわりと笑う風音につられ勇も笑顔となる。
目の前で穏やかに笑う風音の一番は間違いなく実弥だ。
それでもそれを敢えて言わず宝物だと言ってくれる心根が愛おしく、思わず頭を撫でそうになった……が、背後から物凄い気配を感じて手を止めた。
「風音、おいで」
今まで言われたことのない言葉で呼ばれた風音は満面の笑みでそれに応え、広げられた腕の中に飛び込んでいった。
その時の実弥の勝ち誇ったような笑みに引き攣り笑いを零したのだが……更に引き攣るものを見せつけられた。
「ちょっ……と?!不死川さん!大人気ない!」
見せつけられたのは口付け。
しかもご丁寧にも風音のその時の表情が見えないように手で隠している……勇の言う通り全くもって大人気ない。
僅かな時間の口付けを終えた後に残ったのは、やはり勝ち誇ったような実弥と……恥ずかしさで体をフラフラと揺らす風音のみ。
そして広げていなかった方の手で引き摺られ……何やら体をガクガク震わせる剣士だった。
「コイツは誰にも渡さねェ。ってなわけで、お前ら全員元気な状態で風音の稽古は受けさせねェ……俺に一太刀入れるまで相手してやる。風音の稽古受けんのはそれからだァ」
風音の稽古をすぐに受けられるのは女剣士のみ。
男剣士は実弥から開放された後に風音の稽古となる。
つまり未だに風音は待ちぼうけを食らっており、とんでもない提案を持ち掛けられることとなる。