第20章 強化訓練と育手
(怪我した人がどんどん増えていく……実弥君のお稽古、皆さんが怖がってた理由はこれだったんだ)
風音が待ちぼうけをくらって暫く、未だに女剣士は訪れず実弥に一太刀浴びせた剣士が現れず、怪我人の手当てに勤しんでいる。
剣士たちは怪我をしたからと言って実弥から開放されるわけもなく、手当てが終わるとすぐに実弥によって連行されてしまう。
「い、嫌だ。行きたくない……柊木さん!助け……」
あまりに厳しい稽古に風音にすがり助けを求めても無駄。
襟を掴まれ引き摺り稽古場へと連れ戻されていくのを数十回見送った。
「何サボってやがんだァ、まだ終わってねぇだろォ!コイツに甘える暇…… 風音、お前もこっち来い」
「え?う、うん。吹き飛んだ木刀を拾えばいいの?」
なぜお呼ばれしたのか分からず雑用を申し出ると、実弥から晴れ渡る空のような眩しい笑みを返された。
(わぁ!カッコいいっていうより可愛い笑顔!こんな笑顔でお願いされたら何でも応えちゃう!)
呑気に見蕩れていた自分の頬をムギュっとつねりたくなったのは僅か数分後。
「私のお稽古……追いかけっこなんだけども!決して皆さん相手に打込みじゃないんだけど!」
永遠と稽古を続けていた実弥が一呼吸置くために呼ばれた風音。
水を飲む間だけやってみろと言われ断るに断れず木刀を握ってしまったのだ。
「知ってる。お前の力、ここのヤツら全員に使って相手してみろ。後々他の柱んとこでどうせ同じことやらされんだァ。練習しとけ」
「あ、はい!では皆さん、各々の先の光景を頭の中に送りますので、その光景を参考に私の攻撃を避けてみて下さい!」
ここで剣士たちに知られた風音の能力は総力戦で活用する手筈だった。
剣士たちの被害を抑えるため、鬼の滅殺に役立てたいと本人が会議の場で申し出たからだ。
危険きわまりないその提案を渋々柱たちやあまね様が認め、あとはいつ剣士たちに伝えるかの問題だった。
その問題はこうして計らずしも解決した今、実践させるのみである。
そしてそれを嬉々として受け入れ、先を見る時に見せる独特の光を瞳に宿らせ、風音は木刀を握り直し構えた。
「いきます、お覚悟を!」
剣士たちが先を送られるということは…… 風音も先が見えることを意味している。