第20章 強化訓練と育手
「実弥君の未来……少しだけお借りしました。……私は……勇さんの言う通り先を見る力があり、それを共有することが出来ます。でもそれを活用したからと言って父がしたことの全てを償えるわけもありません。もう……いいんです。勇さん、実弥君。私は切り刻まれても……」
「何でそんなこと言うんだよ!那田蜘蛛山で何人助けてくれた?煉獄さんは?宇髄さんは?俺だって風音に助けられたんだよ!確かに風音の父さんは命を奪った!でも何でその業を君が背負うんだよ!違うだろ……そんなの間違ってる」
涙を流しそうなほどに悲しく顔を歪ませてしまった勇に何と声を掛ければいいのか……なぜこうも弟の仇の娘である自分を想ってくれるのか分からず実弥を見上げる。
すると実弥も悲しげに目を細めて自分を見つめ返しており、風音の頬に涙が伝った。
「切り刻まれてもいいなんて言うな。お前は大人しくここで待ってろ」
ポンと優しく風音の頭を撫でて実弥が向かったのは、勢いの削がれた怒り狂っていた剣士の前。
その後ろ姿からは激しい怒りではないものの、静かな怒りが漏れ出ているように見える。
「実弥君……怒らないで」
「俺は大人しく待ってろって言ったろ。はァ、おい。風音の父ちゃんが下弦の弐になったってのは柱全員が知ってたことだ。んで俺は風音の師範だったわけだが……女殴る前に俺を殴りに来いよ。普通に考えりゃ最低限俺が知ってるってお前も分かってたろ」
風音を黙らせ……剣士からは言葉を奪った。
それでも何か返答するまで解放しないとの意志を実弥から感じ取った剣士は、冷や汗が伝う中どうにか言葉を絞り出した。
「不死川さんは……柊木の肉親じゃないでしょ。その不死川さんに矛先向けるのは……違うんじゃないですか?」
「あ"ぁ"、お前の判断基準は肉親かどうかかよ。知ってる奴は伊黒だけなんだがなぁ、風音は俺の許嫁だ。アイツの父ちゃんが鬼だって知った上で俺からカミさんになってくれって言った。ほら、俺を殴れ……」
「え?!不死川さんと風音って恋仲なだけじゃなかったの?!えぇ……万に一つも俺に望みないじゃないですか!」
何と詰め寄って来たのは例の剣士ではなく、例の剣士を拘束していたはずの勇だった。