第20章 強化訓練と育手
殴られた頬や地面に打ち付けた体も痛むが、剣士の言葉が風音の胸に激しい痛みをもたらした。
いつの日かこうした日がくるとは覚悟していた。
父親からの被害者が出ているとお館様から教えていただいたその瞬間から覚悟していた状況。
柱となることにより継子時代よりも名前が鬼殺隊内で知れ渡った今、覚悟していた状況が現実となったのだ。
「返す言葉もございません。下弦の鬼となり人を多く襲った柊木功介は間違いなく私の父です。かけがえのない命を奪った父を持つ私を……貴方方の思うようにしていただいて構いません。ですがここは風柱の稽古場です。私の稽古場に……」
移動しましょう。
そう紡ぎ出そうとした口は大きく優しい手で塞がれた。
そしてその脇を木刀を握ったままの剣士たちが通り過ぎ、更に新たに来た剣士が怒りに満ちた剣士に駆け寄っていった。
(勇さん?!ダメ、こんな大切な時に剣士の間で亀裂が入ったら……)
「お前もコイツの父親に仲間殺されただろ!何で庇ってんだよ!殴ってグチャグチャにしてやりてぇって思わねぇのかよ!」
体を押さえられもがきいきり立つ剣士の怒りを自分だけに向けさせるために伸ばした風音の手は、やはり大きく優しい……実弥の手によって阻まれた。
「立花も来やがった。お前、立花から聞いてねェだろうからしっかり聞いとけ」
何のことを言っているのか分からなかった。
それでも握ってくれている手や口に添えられた手の力が僅かに強まったので、今し方到着して一人の剣士を拘束している風音の宝物の一人である勇の声を聞かなくてはという気持ちにさせられ、その格好のまま耳を傾けた。
「思うわけねぇだろ!誰かに事情聞いたのかよ!この子の父親が鬼なっちまったってこの子が知った時、どうしたのか……その父親をどうしたのか知らない癖に…… 風音を殴ってんじゃねぇ!」
「事情なんて知るか!コイツの父親が仲間を殺したことに変わりないだろ!お前、確か弟殺されたよなぁ!いい人ぶんのやめろよ!」
拘束された剣士の言葉に風音の心臓が嫌な音をたてた。
会えばいつも笑顔で話し掛けてくれ、仲良くなりたいから名前で呼んでくれと言ってくれていた勇。
その勇の弟を自分の父親が殺めていた……
それが事実なのかと勇を見ると……悲しい笑顔をこちらに向けていた。