第20章 強化訓練と育手
ズズッ……
茶を啜る音が静かな庭に響く。
「穏やかな昼下がりだね。もう他の柱の方々のところには剣士の人たち来てるのかな?」
「……そりゃお前、今日から始まってんだから来てんだろォ」
総勢数百人から構成されている鬼殺隊。
その剣士たちが一斉に九人いる柱と、柱を退きながらも今回の合同強化訓練に手を貸すと名乗りを上げた天元の元へそれぞれ赴くことになっている。
特に順番は決められていないので不死川邸へとやって来る剣士も居るはずなのに、待てど暮らせど誰もやって来ない。
「うーん、新米柱の私のお稽古……嫌なのかな?私と追いかけっこなんて子供じみてて嫌煙されてる?」
しょんぼりする風音の姿に罪悪感を覚える実弥。
風音がどうこうという問題で剣士が来ないのではないと実弥は分かっているからだ。
「いや、お前の稽古はどっちかと言うと人気あるらしいぜ?それでもここに剣士が来ねェのは、俺の存在が原因……じゃねェかァ?クソ、一番に来たヤツ速攻でぶちのめしてやる」
つまるところ実弥が恐れられているが故に剣士が不死川邸にくることに二の足を踏んでおり、今の状況と相成ったわけである。
「そうなの?私ならいの一番に実弥君のお稽古に走るけどな。ん?やっぱり最後にする!楽しみは最後に取っておいた方がいいもん!実弥君と打込み稽古なんてご褒美にしかならないよね!」
実弥との稽古がご褒美だと思っているのは剣士の中でも風音だけだろう。
扱かれ凄まれ叩きのめされ……気を失うまで続くであろう稽古など、普通の剣士からすれば恐怖でしかないからだ。
そんな恐怖を一切感じない風音の言葉に実弥の頬が僅かに赤く染まる。
「ご褒美ってなァ……あぁ、お前はいくら扱いても扱き甲斐ねェほどに食らいついてきてたよな。しゃあねェ、可愛い可愛い元継子の相手でもしてやるか。ほら、風音。木刀構えろォ……手合せすんぞ」
「え?!いいの?!嬉しい!じゃあ……大好きな大好きな元師範にお相手願います!」
変な惚気合いの後に始まったのは穏やかでない手合せ。
一時間ほど続けた後に我に返って庭を見回すと、傷だらけになっている風音を体を震わせた剣士数人が一塊となって見守っていた。