第20章 強化訓練と育手
サチと完全同居するに当たり、サチがいつどの部屋でも休めるようにと二人は水場を除く各部屋にサチ用の座布団、冬には寒さ対策として小さな上掛けを常備している。
基本的に二人が就寝する際は共に同じ部屋で休むことが多いが、昨日は二人の何やらいつもと違う雰囲気を感じ取ったようで、別の部屋で休んでいたらしい。
「そうだね、サッちゃんを先に探してあげないと」
二人が笑顔で頷き合って立ち上がると、開けておいた襖の間から白いフワフワな毛に覆われた顔がチラと姿を現した。
遠慮気味に覗いている姿が可愛らしく、二人がしゃがみこんで笑顔で腕を広げると、嬉しそうに飛び跳ねながら二人の胸に飛び込んでいった。
「風音、お前準備すること特にねェんだったよなァ?俺の方は打込み稽古させっから木刀の準備しなきゃなんねェ。ちょっと手伝ってくれ」
「もちろんです!道場からお庭に木刀運んだらいい?それとも打込み稽古に必要な打ち込み台をお庭に設置する?」
鬼との総力戦に備え、本日から柱稽古……合同強化訓練が開始される。
それに伴い剣士たちが多く不死川邸へと足を運んでくるので、その前にと風音は早朝から洗濯物を干し、昼前となった現在それらを取り込み丁寧に畳んでいるところだ。
それも終わりかけた頃、実弥からお手伝い要請がもたらされたのである。
「打ち込み台なんざ必要ねェ。俺相手に打ち込みさせんだ。だから木刀を庭に運ぶの手伝ってくれ……俺もそれ一緒にやるから」
「実弥君相手に打込み稽古……それ、私がして欲しい!あ、こっちはもう終わったから大丈夫だよ!」
目をキラキラさせながら畳み終えた洗濯物を抱え居間から飛び出してしまいそうだった風音の手を握り、実弥は手入れしていた木刀を脇に置いて拒むことを知らぬ体を胸元に誘った。
「悪ィな。洗濯物、助かった。俺がしまってくるからお前はここで待ってろ。少し休んでてくれ」
ふわりと頭を撫でられたかと思うと、腕に抱えていたはずの洗濯物は忽然と姿を消し、気が付けば実弥が笑顔を残して居間を後にしていた。
「優しい!やっぱり大好きだなぁ……あ、お茶入れて待っとこうっと」
洗濯物を片しに行ってくれた実弥が居間に戻ると、風音が二つの湯呑みと急須を用意して笑顔で待っていた。