第20章 強化訓練と育手
風音が夙柱に就任して数日後の朝。
瞼に差し込む朝日の眩しさにほんの少し身動ぎし、翡翠石のような瞳がゆっくりと実弥の瞳に映し出された。
「ん……実弥君、おは……ようございます。えっと……昨夜は大変お世話に……なりまして」
「どんな挨拶だよ……おはよう。体、何ともねェか?」
顔を真っ赤にして布団に潜り込んでしまいそうになった風音の体を抱き寄せて阻止し、キョロキョロと忙しなく動く瞳を覗き込む。
パッと見ただけだと特に不調はなさそうに実弥には見えたが、嘘を付けない風音から直接聞くまで安心出来ないと見つめ続けていると、瞳を実弥に固定して小さく頷いた。
「何とも……ないです。それよりも……昨日の実弥君がカッコよすぎて思い出すだけで……あ、いつもカッコいいんだけどね!笑顔も好きだし怒った顔も凄む顔も」
「そんだけ元気なら問題なさそうだな……ったく、お前はあっと言う間に色気吹き飛ばしちまうんだからよォ……」
どうやら昨夜実弥の螺が僅かに吹き飛んだようである。
その雰囲気のまま暫く微睡もうと思っていたのに、相変わらず色香を瞬時に吹き飛ばしてしまう風音に実弥も苦笑いしか浮かばない。
それでも自分を拒まず受け入れ、こうして元気に朝を迎え朗らかな笑顔を浮かべているのだから、実弥とて何だかんだで愛でるしか出来ないようだ。
「だがお前が笑顔で居られてんのが俺も嬉しいっつぅか何つぅか……あ"ぁ"、ヤベェ……」
(落ち着け……今日から柱稽古始まんだから理性飛ばすわけにいかねェ!南無阿弥陀仏……)
実弥が必死に色々抑えているなんて風音は知らない。
知らないからこそ無邪気に笑みを浮かべ、実弥の体にピタリと体を寄り添わせてしまう。
「実弥君が笑顔でいてくれるの、私も嬉しいんだよ?フフッ、ヤベェくらいに嬉しくて幸せ」
実弥の口調を真似て風音が言っているヤベェと、実弥が言っているヤベェの意味合いは大きく異なる。
無意識に理性を試してくる風音をギュッと一度抱きしめ、意を決してそのままの格好で起き上がった。
「お前が幸せならもう何でもいいわ。起き上がれそうなら稽古の準備すんぞ。……っとその前にサチだ。結局昨日この部屋に来なかったな」