第19章 お薬と金色
帰り道。
ゆっくりと家路を辿っていた二人と一匹は、月が登り始めた空の下、視界一杯に広がる金色に輝く光景を前に足を止めていた。
「うわぁー!実弥君、サッちゃん!ススキが月の光で金色に光ってるよ!すごい!夢みたいな景色だね!ちょっと行って埋もれてみようよ!」
風音には手を引っ張られサチには隊服を引っ張られ……嫌ではないがいやおうなしに実弥はススキの群生の中へと引っ張りこまれていった。
「分かったから焦んなァ。転んだら怪我しちまうだろ……ほら、風音もサチもちょっと落ち着け」
風音はあまりに美しい光景に、サチは楽しそうな風音の姿に興奮しススキの中へと実弥を誘う。
それを落ち着かせるべく一人と一匹の頭を撫でてやると、どちらともが落ち着きを取り戻し、転ばないようにソロソロと奥へと進んでいった。
「綺麗だね。天国はこんな光景なのかな?お母さんと……お父……ううん、お母さんは綺麗なところで穏やかに過ごしてて欲しいな」
母親や父親を想い悲しげな笑みを浮かべた風音の姿は哀愁に包まれており……このまま消えていなくなってしまうのではと思うほどに儚く映った。
握ったこの手を離してしまえば例え手を伸ばしたとて掴むことの叶わぬ場所へと消えてしまいそうで、実弥は思わず手を強く引き、しっかりと暖かな体を抱き寄せた。
「実弥君?どうしたの?」
「何でもねェよ……お前の母ちゃんも父ちゃんも近くで見守ってくれてるに決まってんだろ。きっと……俺らの近くで俺らと同じ景色を見てるはずだ」
すぐ間近に聞こえる実弥の心音は速く強くなっており、僅かであっても動揺しているのだと伝わる。
そんな実弥を安心させるために強く抱き締め返し、暖かな胸元に頬を擦り寄せた。
「うん、そうだよね。でもそこに実弥君のご家族も一緒にいてくれたら嬉しいな。皆で穏やかに温かな気持ちで綺麗な景色を見ていて欲しい。それでね……笑顔でいて欲しい。実弥君にも」
実弥の暖かさに和んだところで顔を上げて様子を伺うと、風音が何よりも大好きでいつまでも見ていたくなる、実弥の穏やかで優しい笑顔が瞳一杯に映し出された。