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涼風の残響【鬼滅の刃】

第19章 お薬と金色


苛立つような恥ずかしいような。
そんな気持ちを抱きながら入った部屋には、膝の上でサチを寝かしてやりながら口元に笑みを浮かべた風音がいた。

サチを起こさないように実弥が静かに歩み寄って行くと、風音は満面の笑みで両腕を広げて暖かさを求める。
それを実弥が拒むわけもなく、ゆっくりと畳に腰を下ろしてふわりと抱き締めてやった。

「番犬は役に立ったのかよ?」

「ん?サッちゃんはいつも通りいい子に私の膝の上でオヤスミしてたよ。冨岡さんはついさっき帰っちゃった。……実弥君、お帰りなさい」

どうやら本当の意味での番犬のお役目を果たせなかったようだが……まぁ、風音と義勇が二人きりになることを避けられたので、例え眠っていただけだとしても番犬としてサチは及第点だろう。

そんな計らずしも役目を全うしたサチの頭をそっと撫でてやり、その手を風音の頬に当てて自分を見るように促す。

するといつもなら実弥からしなければなかなか口付けすら辿り着かない風音が、自ら実弥の唇に口付けを落とした。

(不意打ちヤベェ……自分ん家だったらもっとヤバかった……色々と)

雑念を頭の中に巡らせたのはここまで。
あとは自分の望むままに深く口付けを落とし、ようやく息の仕方を覚えた風音が恥ずかしさで体をフラフラ揺らし出すまで続けて唇を離した。

「珍しいじゃねェか。風音から接吻してくるなんてよ」

いつの間にやら目に溜まっていた涙を脱ぐってやりながら頬を撫でると、風音は小さく息を零してニコリと微笑んだ。

「実弥君のお顔見たら口付けしたくなっちゃった。ねぇ、実弥君。ーーー……」

聞いたことのない言葉で紡がれた音は実弥には言葉として認識出来なかったが、今の風音の表情を見れば何となく意味が分かったような気がした。

「異国の言葉かァ?アイ……何つった?」

「フフッ、愛してるって言葉。お母さんが唯一使った異国の言葉だよ。私ね、実弥君が大切で大好きで愛おしくて仕方ない」

聞きたいはずの玄弥との遣り取りを敢えて聞かず、愛情表情を惜しげも無く披露した風音の頭を撫で、暫くの間二人きりで穏やかな時間を過ごし、行冥に挨拶を終えた後、世話になった藤の花の家紋の家を後にした。
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