第19章 お薬と金色
玄弥の想像していた返答と違ったのか、目を見開き実弥を見つめ更に涙の量を増やしてしまった。
言葉を失い自分を見つめ続け涙を流す玄弥に実弥は溜め息を零し、肩を落として俯いた。
「で……俺がここまで言ってもお前も鬼殺隊抜ける気ねェのかよ」
「ない……世界一優しくて……誰よりも幸せになるべき兄ちゃんを守りたいから……」
思ってもみなかった玄弥の言葉に、今度は実弥が目を見開き頭を上げて玄弥を見つめた。
幼い頃に別れ再会してからというものの、無視を決め込んだり怒鳴りつけたり……殴り掛かったり……優しいとは掛け離れた言動を繰り返していた実弥に対する言葉とは思えなかったからだ。
だが玄弥の表情からは嘘偽りが全く感じとれず、本心から言っているのだと分かる。
いつの日にか同じようなことを言った少女の姿が頭の中にチラチラと過ぎった。
「んだよ……どいつもこいつも俺をなんだと思ってやがる。はァ……好きにしろ。だがお前、悲鳴嶼さんにも言われてんだろうけど、俺も剣士の才能ない奴を継子にはしねェ。あと、いくら世話のかかる弟と言えど、これからする柱稽古で手加減しねェからな」
自分には弟なんていない。
再会してから幾度となく言われ続けていた言葉が今覆った。
才能ない奴を継子にしない……と言われたことには気持ちが暗く沈んだが、弟だと言ってくれた実弥に向けたのは幸せそうな笑顔だった。
その笑顔に微笑み返しそうになるも、今までの自分の言動や兄としての矜恃が邪魔をして険しい顔となる。
「いつまでも締まりねぇ顔してんなァ!もう話は終わりだァ!いいか、悲鳴嶼さんに迷惑かけんじゃねェぞ!」
怒りの中に照れを隠しながら勢いよく立ち上がり、何か言いたそうな玄弥に背を向けて襖に手をかける……が、思い出したように顔を僅かに後ろへ向けて言葉を残した。
「これから近い先、鬼との総力戦が起こる。俺ら柱で被害を最小限に抑えるつもりだが、お前ら剣士も死なねぇように力付けとけ。柱稽古、俺んとこ来んの楽しみにしててやらァ」
本当に楽しみなのか?と思えるほどに険しくもギラついた笑みを残し、今度こそ本当に部屋を出て行ってしまった。
「柱稽古って?……それより俺、鬼より先に兄ちゃんにぶちのめされそうなんだけど」
実弥の残していった言葉と笑顔にぶるりと身体を震わせつつも、やはり玄弥の顔には笑みが浮かんでいた。