第19章 お薬と金色
義勇が一大決心をした頃、実弥と玄弥は無言で睨み合っていた。
(アイツの言う通り全っ然辞めるつもりねェなァ!何で俺に守られとかねェんだよ。呼吸も全く扱えねぇクセに……鬼喰い続けてたらどう考えても体に悪影響だろうが)
(辞めない。俺だって兄貴を支えたい。鬼喰って俺の体に何が起こっても兄貴を支えたい)
と……互いの想いは似通っているのに平行線を辿っている。
実弥が怒鳴り散らし殴り掛からないのは、今まで頑なに家族間の問題に口を出さなかった風音がどうしようもなく悲しい未来を見て、唯一無二の兄弟でどうにか向き合って欲しいとの想いを向けられたからだ。
つまるところ仲直りをして一緒に総力戦に挑もうと願われたわけだが、特異体質を持っていようとも剣士としての才能に恵まれなかった弟が鬼殺隊に残ることを受け入れられずにいる。
「なぁ、兄貴。あの時……母ちゃんが鬼になった時のことなんだけど……」
玄弥の切り出した話題に実弥の体がピクリと反応する。
鬼となった母親を死に追いやった時、混乱し悲しみの渦中にいた幼い玄弥に人殺しと言われた。
確かに言われた当初は胸にチクリと痛みを覚えたが、兄妹全員が大好きだった母親の死を前にすると当たり前の言動だと納得出来ていた。
今でもその考えは変わっていないし、傷として心に残っていない。
それよりも鬼殺隊を抜けて穏やかに暮らしてくれねぇか……と考えながらも、目元を僅かに和らげて玄弥の話に耳を傾けた。
「謝って許されるなんて思ってないけど……本当にごめんなさい。兄貴は……命懸けで俺を守ってくれたのに……あんな酷い言葉……俺、ずっと後悔してて謝りたくて……本当に……ごめん」
やはり実弥の予想通り玄弥は涙を流してしまった。
風音が実弥の立場ならば、手を握り笑顔を向けスラスラと迷うことなく気にしてないよと言えるのだろう。
そんなことを考えながら……完全に真似は出来なくても、想いは伝えようと言葉を紡いだ。
「何泣いてんだよ。俺はそんなこと気にしてねェ。俺はただお前に……母ちゃんや弟、妹たちが無くしちまった穏やかで幸せな生活を、お前が爺になるまで送って欲しいだけだ。お前が謝ることなんてねェんだよ」