第19章 お薬と金色
藤の花の家紋の家の一室。
こちらでは風音と義勇が向かい合わせに座り……そして実弥によりお供を命じられたサチが風音の膝の上で微睡んでいる。
可哀想に……義勇はやはりイヌが苦手だったようで、無表情を貫いているのに先ほどから顔の汗がとまっていない。
(私にお話しってなんだろ?出来るだけ早く終わらせて差し上げないと……冨岡さんがサッちゃんを怖がって倒れちゃうかも)
数分間無言のままの義勇を安心させるようにニコリと微笑むと、要件を聞くために言葉を発した。
「冨岡さん、私に聞きたいこととは何でしょうか?あ、お薬ですか?確か在庫ならまだ……」
「い、いや、薬ではない。その……柊木は……あれだ。そ、そうだ!異国の言葉を話せるのか?」
風音キョトン、サチはスヤスヤ。
言葉を発した義勇も義勇で聞きたかったことと違うことを聞いてしまったようで、自分の発言にキョトンとしている。
何となく聞きたいことではないのだろうと察しつつ、せっかく話しかけてくれたのだからと風音は微笑んで答えた。
「いいえ、私の両親は日本語で生活していたので私も日本語しか話せません。あ……でも一つだけ。お母さんがお父さんや私に言ってくれていた、優しく幸せな気持ちなる一言だけ知ってますよ」
「そ、そうか。その言葉を教えて貰っても構わないか?」
もちろん!
と答えかけて風音は口をつぐんだ。
その代わりに頬を赤らめる。
「またの機会にお伝えしますね。先に実弥君にお伝えしてから……それから冨岡さんにお伝えします。そして冨岡さんがいつの日か……愛しいと想える人に伝えてあげて下さい」
首を傾げていた義勇であったが、今の風音の幸せそうな表情や言葉の節々から、どういった意味を含んだ一言を実弥に伝えようとしているのか分かった。
その一言は後日教えてもらえるようであるし……何より自分が本来聞きたかったことではないので、僅かに口元を弛めて頷いた。
「あぁ、分かった。ところで柊木に聞きたいことがある。柊木は……自分を認めてあげられているのか?」