第19章 お薬と金色
(何でこうなっちまったァ?!いきなり玄弥と二人きりかよ!クソが……冨岡、帰りに絶対一発ぶん殴ってやる)
と言うことで実弥は現在、もう一人の尊く失いたくない者である玄弥と二人きりで向かい合って座っている。
「あ……兄貴、その…… 風音はいいのか?冨岡さんと二人で……」
「あ"ぁ"?全っ然問題ねェよ!二人きりじゃねェ、サチも一緒だろうがァ!」
全然問題なくない兄の反応に玄弥は吹き出しそうになるのを堪える。
せっかく話をしてくれると言ってこうして向き合ってくれたのに、機嫌を損ねてしまっては台無しになるかもしれないと思ったからだ。
しかし実弥はそんなのお見通し。
不機嫌そうに鼻を鳴らしてから溜め息をつき、次の瞬間には真剣な眼差しを玄弥へと向けて口を開いた。
「お前……どうあっても鬼殺隊抜ける気ねェのかよ?……この先、鬼に殺されるって言われてもか?」
何を突拍子もないことを……と言いかけて玄弥は口をつぐんだ。
今の実弥の悲しみを含んだ表情を見れば脅しだけで口にした言葉ではないと理解出来たからだ。
しかも……自分の兄は先を見る不思議な能力を持つ風音と恋仲である。
兄が風音の能力で先を知ったからこそ、自分に向けた言葉に違いないと確信した。
そのほぼ決定している未来で自分が死ぬのだと理解すると、背中に冷や汗が伝い握り締めた手が震える。
だが玄弥とて軽い気持ちで鬼を喰ってまで剣士をしているわけではないのだ。
「例え死ぬって言われても俺は抜ける気ないよ!風音がしてるように、俺も兄貴を支えたい!兄貴にあの時のことを謝って……もし……もし許してもらえるなら、側で支えたいんだ」
何故こうも自分の周りに頑固な泣き虫が集まるのか……実弥がそう思いガクリと肩を落とすのも仕方がない。
鬼殺隊を何があっても抜けないと宣言した玄弥の目には、涙が薄ら浮かんでいるからだ。
(やっぱコイツは風音と似てんだよなァ……鬼殺隊抜けろっつぅ俺の言葉聞きゃしねェしすぐ泣きやがる。はァ……優しい奴ほど鬼に殺されちまうのに……)
もう一人の頑固で泣き虫な金の髪を持つ少女を思い浮かべながら大きく溜め息を零し、再度玄弥と向き合った。