第3章 能力と剣士
「さすが大きなお屋敷。冷蔵器なんて初めて見たよ……便利だなぁ、これがあればお野菜もお魚も保存できちゃうんだから。ん?そう言えば昔に住んでいた家にあったような」
おかずや味噌汁を作り終え、あとはご飯が炊き上がるのを待つだけとなっている。
待ちぼうけの中で意識が向いたのは神器としか言いようのない、食品を保存出来る冷蔵器。
「貧乏生活が板に付いてて忘れてたなぁ。鬼殺隊の剣士って上になればお給金たくさんもらえるの?……え、じゃあ柱の実弥さんは……やめとこう、こんなこと考えたら失礼だよね」
もうすぐ炊き上がりそうな米の様子を伺い鍋に水を張って火にかけて茶の準備を行う。
(お父さん……実弥さんが言ってた通りそれなりの地位というか、上の方の人だったのかな?家はボロ屋じゃなかったし、冷蔵器もあったくらいだし。お母さんは……お父さんが鬼になってること知ってた?)
いくら考えても質問したい相手はここにはいない……この世にはもういない亡き人なので疑問は永遠に分からない。
「どうして鬼なんて増やしてるんだろ……お父さん、鬼殺隊だったんだから鬼になっちゃったら鬼殺隊の人に迷惑かけちゃうよ?不思議な技使えるから……」
お館様は鬼殺隊の隊士に鬼になった功介が害を及ぼした……つまり傷付けたり命を奪ったりしているとは明言しなかった。
でも明言しなかっただけで、実際のところはそうした行為をしていても全くおかしくはないのだ。
「あれ?どうしよう……私、ここにいちゃ駄目なんじゃないの?柱の保護した人間の父親が鬼になって暴れ回ってるなんて……他の剣士の人に……柱の人に知られたら良くない気が……」
悲壮な表情になったところで後ろから頭に軽い衝撃がもたらされた。
何事かと頭をさすりながら驚き振り返ると、目を吊り上げた実弥が手を軽く握り締めながら佇んでいた。
「変なことに気ィまわしてんなァ。俺の心配よりテメェはテメェの心配だけしてりゃあいいんだよ。鬼殺隊いる奴なんて似たような境遇の奴ばっかだ。何もお前だけが特別って訳じゃねェ」
「じゃあ……私が鬼殺隊の剣士になれば実弥さんが悪く言われることないって事ですよね?私が……お父さんを滅することが出来れば実弥さんが嫌な思いしなくてすみますよね?」