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涼風の残響【鬼滅の刃】

第3章 能力と剣士


そうして実弥が活用されることなく終わった風音の重いお薬製作道具一式を背負ってやり、ほぼ言葉を交わすことなく屋敷に辿り着いた。

用が済んだらここに戻るようにと指示を出していた爽籟もまだ帰っておらず、屋敷の中は実弥と風音の二人だけだ。

「昼飯、作っててやるから部屋で休んどけ。一人で考えたいこともあんだろォ」

居間に二人で足を踏み入れ風音に提案したが、それを風音は首を左右に振って受け入れることはしなかった。

「大丈夫です。助け出してもらってからずっと実弥さんに手間ばかりかけさせてしまってますので、お昼ご飯は私が作ります。実弥さんこそお部屋で休んでいて下さい……私のせいで一晩中起きていたのだから、休んでいないと夜の警備か任務に支障をきたしてしまうでしょう?」

弱々しい笑顔に実弥の目が苦しげに細まった。

どうして心の傷が癒えていない者のところに更に辛い現実が押し寄せてくるのか。
懸命に前を向いて生きようとしている者を嘲笑うかのように、更なる苦難が降り掛かってくるのか……

いくら考えても答えなど出てくるはずもなく、行き場のない苛立ちが実弥の胸を満たしていく。

そんな気持ちなど露知らず、風音は台所へと足を向けて昼餉の準備にとりかかろうとしていた。

「なァ……辛いなら泣けよ。今くらい崩れて寄りかかりゃあいいじゃねぇか」

知らず知らず……無意識に出てしまった実弥の言葉に、風音は困ったように笑いながら振り返った。

「私ね、実弥さんのお荷物になりたくない。柱って鬼殺隊の要のような人でしょ?毎日鬼を倒して鍛錬して警備して……ただでさえ大変なのに、居候の私に時間を割かせるなんて出来ません。お父さんのことは……どうにか……折り合いをつけるので……ご心配ありがとうございます」

悲しみに揺らしながらも柔らかく弧を描いた瞳が、昨日見た涙を流しながら笑う風音と重なって見えた。
どうしようもなく胸を締め付けるその笑顔に顔を顰めながらも、気丈に振舞っている風音を無理に涙を流させることは出来なかった。

「柱の力と体力舐めんなァ……クソッ」

風音に聞こえない小さな悪態は実弥の耳にだけ響いた。
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