第19章 お薬と金色
仰ぎ見た実弥の表情は酷く沈んでおり、お館様の様態を察した。
風音自身も実弥に拾われるまで薬を売り歩き、幾度かこういった表情をしている病人の親族を見たことがあるからだ。
そもそも風音よりも優秀なしのぶがいるのだから、これまでに手を尽くそうと思案し模索していたに違いない。
つまり風音が今お館様の病の進行状況を聞いたとしても力になれるはずがないのだ。
「申し訳……ございません。せめてこの痛み止めを……お持ち下さい」
羽織の袂から取り出した小さな巾着袋をあまね様に手渡すと、あまね様は驚き目を見開きながらも一瞬後には笑みを浮かべ、そっと巾着袋を受け取った。
「お心遣いありがとうございます。耀哉は鬼舞辻との縁を断ち切らなければ治らぬ呪い……のようなものに冒されています。しかしながら柊木様のこのお薬で持ち直すやもしれません。必ず耀哉に届けます」
ニコリと微笑んでくれたあまね様にどうにか笑みを返し、瞳に薄ら浮かんでいた涙を拭って……まずはあまね様へ。
そしてあまね様へ背を向けぬよう斜め後ろに体を向けて頭を下げた。
「取り乱してしまい申し訳ございませんでした。本日は私めのためにお時間をいただきありがとうございます」
謝罪と感謝を全員へ伝え顔を上げると、誰もが諌めることなどなく穏やかな笑みを浮かべてくれていた。
その中で師範である実弥を見上げるとやはり穏やかな笑みを浮かべてくれており、その表情のまま前を向くように促してくれる。
そうして準備が整ったところで、あまね様の美しく高い声が風音に向けられた。
「柊木風音様。これからかつてないほどの激戦が予測される中、皆を導く柱に就任することを了承下さり大変心強く思います。どうか柱の皆様が認めたその類まれなる力で鬼殺隊を支え、導いてください」
あまね様の言葉や力強い光を放つ瞳、お館様と重なって見える優しくも凛とした表情に頷き返し、畳に指を着いて深く頭を垂れる。
「まだまだ若輩者ではございますが、皆様のご期待に添えるよう尽力致します。この身が動く限り誠心誠意責務を全うし……悪鬼滅殺に……貢献させていただく所存です!は、柱の任、有難く拝受致します!」