第19章 お薬と金色
実弥が会議から出てくるまで、風音は産屋敷邸の広い一室にて待機を命じられた。
何でも会議の内容次第では呼び出しがかかる可能性があるかららしい。
「内容次第……やっぱり実弥君が言ってた総力戦のことかな?でも先を見るのは私が皆さんの末席に入れてもらったあとだから……今日じゃないよね。自分の死に顔は兎も角として、実弥君に玄弥さんの悲しい姿を見せたくないな」
先を見たあの日も後日も、実弥は風音に詳しい内容を聞いてはこなかった。
ただ実弥が見たくないというわけでなく、心根の優しい実弥のことだ。
風音の心的外傷を可能な限り抑えたかったというのが本音だろう。
「私も死んじゃうかもしれないから何とも言えないけど……玄弥さんをどうにか救う道はないのかな。……実弥君も大きな傷を負ってたから、それを私で庇うことが出来れば未来を変えられる?」
しかし現状では実弥の実力の方が風音よりも遥かに高い。
実弥でさえ大きな傷を負わせられる上弦の鬼相手に、例え先が見えたとしても体が追い付くかは別問題である。
「……そうだ、指。実弥君の……指を死守出来れば先は変わるはず。私の指を代わりに……」
「おいコラ、一人で物騒な考え巡らせんなァ。ったく、目を離した途端これだからよォ……」
呆れを含む厳しい声がすぐ近くから聞こえ慌ててそちらを仰ぎ見ると、想像した通りの人物が想像した通りの表情で仁王立ちしていた……片手に何かを携えながら。
「ご、御機嫌よう、師範。もしかしなくてもお迎えに来てくださったのですか?」
「何が御機嫌ようだ……んな挨拶今までしたことねェクセに。はァ、お前も会議に参加しろ。これ着てからな」
視線を合わすためにしゃがんだ実弥が差し出したのは隊服だった。
その隊服は形はもちろん……釦の色まで実弥と揃いの隊服。
「え……この隊服……ですか?釦が金色ですよ?就任式は後日だったはずじゃあ……」
差し出されたものを受け取らないわけにはいかないので、反射的に受け取りながら首を傾げて見つめると、実弥は立ち上がって開け放たれたままだった部屋の入口へと足を向けてしまった。
「日輪刀はまだ出来てねェけど、隊服は釦付け替えるだけだからなァ。数日繰り上げて就任式を執り行う」