第19章 お薬と金色
事の顛末を聞き終わる前に実弥は全力疾走となり、その行動の意図を確認する頃には風音も全力疾走となっていた。
「なるほどです!それなら仕方ありませんね!……ところでこの疾走に何か意図があるんでしょうか?」
「仕方ねェ……なァ。楓もお前が柱になんの嬉しかったんだろうし」
頭上で涙を目に溜めたまま、懸命に羽を動かしている楓を爽籟と夕庵が宥めている姿をチラと確認してから風音に視線を持っていく。
足の速さに定評のある自分がほぼ全力で走っているのにも関わらず、隣りで走っている風音は涼しい顔をして遅れることなく着いてきている。
速い速いとは思っていたが、やはり風音の足の速さは風の呼吸を会得していた父の血を色濃く受け継いでいたのだと分かる。
「最近はあんま走ってなかったからなァ。風音がどんだけ走れんのか見てただけだ。俺と同じ速度で走って苦しくねェのかよ?」
「もう少し速度を落としていただいた方が楽は楽ですけれど、もう無理!ってほどではありません。及ばないことだらけですが、師範や柱の方々と並べるものが一つでもあってよかったです」
そう言ってニコリと微笑んできた風音の頭を軽く撫で、徐々に速度を落して……やがて徒歩の速度にまで落ち着いた。
「んな重い鞄背負ってそんだけ走れりゃ十分だ。ほら、もう本部到着すんぞ。身なり整えとけ」
走った影響でぴょんぴょんと飛び出てきた髪を撫で付けてやり、少し乱れた隊服や羽織も整えてやる。
すると風音の笑みが更に深まり、特に乱れていないはずなのに実弥の頭をふわりと撫でた。
「何だァ?髪、変な方向いてたかよ?」
「いえ、初めて村で会った時のことを思い出してました。あの時、師範はまだ袖のあった隊服を貸してくれたでしょ?でも私は釦すらまともに扱えなくて、今みたいに世話を焼いてくれたんです。懐かしくて幸せな思い出だなって」
そんなこともあったなぁ……と記憶を辿りつつ、いつまでも撫でようとする手を取って立ち止まった。
「世話かかんのは変わってねェってことだ。まァお前が幸せならいいけどよ。ほら、行くぞ」
「はい!」
いつの間にやら辿り着いていた重厚な門の前。
二人は同時に木の門に手を当て開き、美しい庭園へと足を踏み入れた。