第3章 能力と剣士
風音がどうにかニコリと笑みを浮かべて頭を下げたのを確認すると、お館様は実弥に向き直った。
「実弥、ここで一晩体を休めていっても構わない。ここが落ち着かないなら宿を手配することも出来るよ。実弥と風音にとって、1番心が穏やかになれる方法を選んでおくれ」
お館様の優しい提案に実弥が口を開こうとした瞬間、混乱し意識も朦朧としていた風音の声が庭に響き渡った。
「お館様、私……不死川さんのお屋敷に帰りたいです。帰ってお昼ご飯を一緒に食べようってお約束していたんです。私は……その、不死川さんのお屋敷が一番好きです」
尻すぼみになる風音の言葉に実弥は真っ赤になり、お館様はそんな実弥を見て驚いたように僅かに目を見開くと、元の優しい笑みを浮かべて頷いた。
「実弥は優しい子だからね。風音もこう言っているし、宿の手配も必要ないかな?」
「は……い。格別のご配慮有難く存じますが、今日は俺の屋敷に帰らせていただきます。今日の件に関しましてはまた後日……爽籟を飛ばしご報告させていただればと……」
チラと恨みがましく風音を横目で見遣るも、心中穏やかでないだろうに本当に嬉しそうに顔を綻ばせていたので、何も苦言を呈することなくお館様へ頭を下げた。
「うん、それで構わないよ。風音、君の笑顔は実弥も穏やかにしてしまうんだね。その笑顔をまた私にも見せてくれると嬉しい。実弥の屋敷でゆっくり休み、疲れを癒しておいで」
「私が笑顔でいられるのは不死川さんのお陰様です。不死川さん……実弥さんが側にいて下されば、すぐに元気になれます。お館様、今日は私なんかのためにお時間を割いていただき、本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる風音に笑顔を向けているのはお館様だけ。
何だか途轍もなく恥ずかしい思いをしている実弥は、真っ赤になった顔を隠すようにお館様に頭を下げていた。
……様々な意味で衝撃的な話が飛び交ったお館様との会合はどうにかこうにか終わりを迎え、幼子に誘われてお館様が部屋を後にし、実弥と風音は実弥の屋敷へと急ぎ帰った。