第19章 お薬と金色
実弥たちが到着する少し前。
一足先に風音は金魚の街へと到着していた……サチを抱えたまま。
もちろんいつも携えている鞄も背負っているので、全身汗だくで今にも倒れそうな様相である。
「か……楓ちゃん。ひとまずこの街にある……藤の花の家紋の家まで案内お願い。宿だとサッちゃん入れないから」
フラフラになりながら終始大人しく抱っこされていたサチを下ろして呼吸を整えること数十秒。
とりあえず動けるまで落ち着いた風音は重い足を引きずり楓案内のもと藤の花の家紋の家へと急いだ。
袖がない隊服では汗を拭うことも出来ずポタポタ滴らせながら歩いて暫く。
「風音?!お前、どうしてここに?あ……兄貴に着いてきたのか?犬……連れて?」
汗を滝のように流し犬を連れてる不思議な少女は玄弥に発見された。
犬を連れた剣士を発見した玄弥ももちろん驚きだが、この街で玄弥と会うと思っていなかった風音の驚きも一入である。
「玄弥さん?!いえ、私はこの子とお散歩してる途中でお呼びいただいて、そのまま抱っこしてここまで走ってきたんです。でもこの子を連れて行けないから、藤の花の家紋の家で預かってもらおうとしているところでした。玄弥さんは悲鳴嶼さんとここに来たんですか?」
「抱っこして?!兄貴の家からだよな?よくここまでたどり着けたな……兄貴に呼ばれてんなら俺が預かっててやろうか?悲鳴嶼さんも会議終わるまでまだ時間かかるだろうし……って、うわ!」
「風音見ツケタ!……サチ連レテ来タノカ?!ドウスル?玄弥ニ預ッテモラウノカ?」
話しながら藤の花の家紋の家へと歩いていると、風音の頭の上に黒い何かが覆いかぶさってきた。
ここにいるのが実弥なら呆れて溜め息でも零すのだろうが、鴉たちに宿木認定されている風音に免疫のない玄弥は驚き仰け反ってしまった。
「フフッ、実弥君の鎹鴉の爽籟君ですよ。お迎えに来てくれたのかな?ありがとう。……玄弥さん、預っていただくのは悪いですし、やっぱりこの子は藤の花の家紋の家で待っててもらおうかな。まだ街を見て回りたいでしょ?」