第19章 お薬と金色
さすがに偶然会っただけの玄弥にホイホイとサチを預けるのは良心が痛み辞退願うも、玄弥は実弥と同じく動物が好きなのか、サチと視線を合わせるためにしゃがみこみ、驚かせないように優しく抱き上げてくれた。
「いいよ、することないから街ん中歩いてただけだし。兄貴に呼ばれてんなら行けよ。帰りは…… 風音だけで家紋の家来てくれてもいい。コイツと待ってるから」
サチの白い毛の隙間から見える玄弥の表情は寂しげで、やはり実弥から避けられるのを悲しんでいるのだろう。
何度も繰り返し見た未来では自分も玄弥も鬼との総力戦で命を落としてしまっていた。
そして二人の亡骸を前に嘆き悲しみ涙を流す実弥の姿。
決定付けられた未来ではないが、そうなる可能性が高い現在……本来は仲のいい兄弟が、このまま互いにすれ違ったままその時を迎えるのは避けてもらいたい。
そうなるとするべき行動は一つだけだ。
「この子はね、サッちゃん……サチって言うの。縁あって実弥君のお家に迎えた子で、とても大切に想ってます。必ず二人でお迎えに行きます。待っていて下さい……実弥君とお迎えに行きますから!」
念押しするように白いふわふわに埋もれた手を握り締め玄弥が頷くまで見つめ続けていると、ほんの少しであっても悲しみの和らいだ笑顔で頷き返してくれた。
「ありがとうございます!ではサッちゃんをお願いします!大人しい子なので手はかからないと思いますが……今日のお礼は必ずさせてくださいね!ご飯でも一緒に」
「風音!お前……何で……宿にいねェんだ……はァ、どうすりゃこうなっちまうんだよ」
爽籟が到着したということは間もなく実弥も到着することを意味していた。
風音とてそれを忘れていたわけではないものの、思いの外実弥の到着が早く戸惑っているところである。
「あ、えっと!サッちゃんとお散歩中に楓ちゃんから報せを聞いて……一度お家に戻ると遅くなるかなぁって……抱っこして連れて来ちゃった。玄弥さんとは偶然ここでお会いしてね、サッちゃん……預かるよって言ってくれたから……お願いしてたところだよ!」
しかし戸惑っていたのも初めだけ。
家族を失ってしまった風音としては今際の際で互いの想いを知るよりも、こうして時間のある時に向き合い少しでも絆の修復に繋げて欲しい。