第19章 お薬と金色
言わないと分かっているからこそ風音は一人で見たいと思っていたのに、そう上手くいかないものだ。
納得いかないもののいつまでも睨めっこしていても実弥が引いてくれるわけでもないので、風音は涙を拭って儘ならぬ師範をキュッと見つめ直した。
「分かりました。不本意ながら皆さんと情報を共有させていただく所存です」
「不本意なのかよ……駄々こねられるよりはマシかァ。とりあえず俺がお前を柱に推薦する理由はこれで全部だ。受ける受けねェはお前自身で決めて構わねェ。まァ、今の言葉聞いてる分には受けんだろうなとは思ってるが」
実弥の予想通り風音は実弥の手を握りしめたまま頷いた後、手を離して僅かに体を後退させる。
「受けます。私の力を存分に発揮し皆さんのお役に立てる可能性が高いのならば、私は手段を選びません。師範、どうぞよろしくお願いいたします。そして、師範に育てていただいたこと、誇りに思っております。感謝の言葉だけでは足りませんが……本当にありがとうございます」
前のめり気味に食いついてきたかと思えば、今度は風音が畳に指をついて深く頭を下げた。
随分前、風音が自分の父親の頸を取りに行く直前にも同じように頭を下げられた。
その時は同伴者としてすぐに自分を指名しなかった風音に腹を立てたが、今の風音の姿に苛立つことはなかった。
いつもなら涙を流していた場面なのに、今は柱となる予定の者として涙を流さず……実弥に対して最大の感謝を伝えるために深く頭を下げてくれている。
基本的に恐れられることの多かった自分を慕ってくれる少女の手を掬い取り、ゆっくりと顔を上げさせてやった。
「礼なんて必要ねェよ。柱が継子を育てるのは当たり前だろ。……いいか、一回しか言わねぇぞ。……はァ……俺もお前が継子でよかった」
「……師範、今の言葉すごく嬉しいです。思いっきり抱き着きにいっていいですか?」
猫が猫じゃらしを狙うかの如くウズウズ動く風音に返事をすることなく腕を広げると、狙いを定めた猫の如く胸の中に飛び込んできた……勢いよく。
あまりの勢いに後ろに倒れ実弥が畳に頭を打ったのはご愛嬌。