第3章 能力と剣士
「本当は風音の体力が回復して落ち着いてから伝えてあげたかったのだけど……それだと事後になるかもしれないと思ったんだ。風音、よく聞いて」
聞きたくなくても風音の体はまるで誰かに拘束されてしまっているかのように動かなかった。
隣りで実弥が背を摩ってくれているように思うが、その感覚すら曖昧で視界がぐにゃりと揺らいでいるように見える。
「君のお父上、柊木功介は十年前の任務で鬼舞辻無惨により鬼にされてしまった」
「お父さんが……鬼に……人を喰べる鬼に?あんなに優しくて明るいお父さんが……人を……喰べてるの?鬼になって……?」
同じ言葉を繰り返す風音の姿があまりに痛々しく、お館様も実弥も視線を地面に落とした。
「目撃情報が出る度に私の子供たちを派遣しているのだけど……いつも煙に巻かれてしまってるんだ。風音、君は人が持ち得ない力を鬼殺隊で役に立てたいと言ってくれているんだよね?」
もちろんそれは今も思っているし、そう出来ればいいと心から思っている。
忌み嫌われていた力が人を助けるために命を掛ける実弥や柱のような人たちの力になれるならば、これ以上嬉しいことはないと思っている。
「あ……えっと、はい。不死川さんに助けていただいた命、力を鬼殺隊で役に立てればと……でも」
「鬼殺隊に入ればお前の父ちゃんだった鬼の頸を、お前が斬らなくちゃならねェ可能性も出てくんぞ」
容赦のない実弥の言葉は事実に違いない。
ここで変に優しい言葉を掛けられたとしても事実は変わらないので、むしろハッキリと言ってもらった方が風音としては有難かった。
「そう……ですよね。人を喰べるなら……倒さなきゃですもんね。すみません……せっかく父の現状を教えてくださったのに……混乱してしまって考えが纏まりません。少し……お時間をいただけますか?どうするのか……しっかり考えたく思います」
気丈に言葉を紡ぐ風音の願いを足蹴にするわけもなく、お館様は悲しげな笑みを浮かべて頷いた。
「もちろん構わないよ。風音がどんな選択をしても私も実弥も咎めることはしない。ゆっくりどうしたいか考えておいで」