第19章 お薬と金色
風音へと向けられていた男たちの視線は実弥へと移動。
真っ赤に頬を染め恥ずかしがっているかと思えば、今日一番の穏やかな表情で風音を見つめ頬を撫でてやっていたので、男たちの方が恥ずかしくなり頬が赤らんでしまう光景だった。
「……仲睦まじいっすね。そっか、姐さんは兄さんに助けてもらったんですね。ん?ちょっと待って下さい。鬼……刀……あぁ!思い出した!俺の親父とお袋が俺がちっさい時によく話してくれた物語があったんですよ!現実離れし過ぎてて作り話だって思ってたんだけど」
一人の男の大きな声に驚き風音と実弥はその男に顔を向ける。
他の男たちも何事だと首を傾げながらそちらに向き直ると、男は興奮気味に作り話とやらと話し出した。
仕事で遅くなり、家で留守番をしている幼い我が子の元へ両親が急いでいる最中、人とは似ても似つかぬ化け物に襲われてしまった。
石を投げても傷はたちどころに回復してしまい、ついに自分たちへと爪が届きそうになった時、どこからともなく現れた人が刀で化け物の頸を斬って助けてくれた。
その刀身は美しい緑で、刀を振るった後には風がふわりと舞っていたという。
不思議な刀と風で助けてくれた命の恩人へ、両親が名前や組織の名を聞くと、初めは名乗る程の者ではないと辞退していたのだが、あまりの押しの強さに根負けして教えてくれたらしい。
命の恩人の名前と組織の名前は決して忘れてはいけない。
子供に何度も言い聞かせるほどに、両親は恩義を感じていた。
「鬼殺隊剣士 階級 甲、風の呼吸を扱う柊木 功介。俺の両親の命の恩人の名前です。確か……可愛い奥さんと娘がいるんだって惚気けてたらしいですよ?もしかして兄さんたちって鬼殺隊って組織にいるんですか?」
思いもよらぬ男の話に風音と実弥は固まり、風音に至っては尻もちを着いて実弥に体を支えられていた。
「風音、お前の父ちゃん、コイツの親の命の恩人だってよ。よかったなァ。助けた人の子供にまで名前覚えてもらってんじゃねェか。ハハッ、やっぱ泣いちまった」
実弥に支えられていた風音はその格好のまま固まり続けていたが、実弥の言葉を皮切りに瞳から涙をポロポロ零し、頬に触れてくれている暖かな手に手を重ねた。