第19章 お薬と金色
そうして土埃が男たちの間近で昇ったかと思えば、一人の男が腰を抜かし地面に尻もちを着いた。
「よォ……俺の連れに何か用かァ?!相手なら俺がしてやる。おいお前、ちょっとツラ貸せ」
尻もちをついた男の前にしゃがみこみ睨め付ける様は辺りの暗さも相俟って……一層の恐怖を相手に植え付ける。
周りに集結しつつあった男たちが恐怖で震え上がるような空気を醸し出し険しい顔つきをしていたとしても、風音にとっては先ほど惚気けた通りの人だ。
屋根に飛び乗った時と同じように軽やかに実弥の側に降り立ち、辺りへの警戒を解かぬまましゃがみこむ。
「お顔は借りなくていいと思いますよ。ただ……今回は私だったから事なきを得ましたが、同じことを他の女性にされては困ります。連れ去りどうしようとしたのか……あ、あれ?!」
連れ去り……との言葉を聞いた途端実弥の表情がより一層険しくなり、男の胸ぐらを掴みあげて無理矢理に立ち上がらせてしまった。
しかもその男を助けようと周りで震え上がっていたはずの男たちが一斉に襲いかかってきたので、風音は立ち上がって実弥の背後に回ることとなる。
そして悲しそうに眉をひそめ、実弥仕込の暴漢対策の構えをとった。
「友達を助けようとする気持ちを他の人に少しでも向けられたら平和なのに……はぁ、いきます!」
まずは弱そうな女から狙え
武器になるものも使え
相手も刀なんて持ってやがるんだから
男たちの言葉に実弥は顔に血管を浮き上がらせた。
「風音ー!手ェ出すなァ!お前は俺の側にいりゃあいい、絶対離れんなァ!」
「うへっ?!あ、はい!傷薬を用意しておきますね!」
「ハハッ、用意しとけェ……コイツらのなァ!」
勢いを削がれ前のめりになった風音に代わり実弥が一歩前に歩み出し、日輪刀を抜くまでもないと迎撃体勢を整えて次々襲いかかってくる男たちをいとも簡単に地面とご挨拶させていった。
「鬼狩り舐めんじゃねェよ、馬鹿が。準備運動にすらなりゃしねェ。風音、薬貸せ。俺がやる」
「え?そうなの?でもこの人数を師範一人で手当てされるのは……大変かと思いますが……それにこっちの傷薬は改善前のものだから匂いがキツいかと……」