第19章 お薬と金色
実弥の担当地区の警備。
街中や人里離れた村、山などをくまなく見て回るが鬼は一匹たりとも出てこない。
それは実弥の担当地区のみならず他の柱の担当地区も同じで、風音が見た通りのことが起こっている。
「出てこねェなァ。風音、俺はあっち見てくっからお前は反対側見て来い。万が一鬼が出たらすぐ楓飛ばせ」
現在地は人々がすっかり寝静まった街。
商店はもちろんどこの家も明かりが消えており、辺り一帯は静まり返っている。
そんな街中なので大きくない実弥の声も風音の耳にしっかり届き、ふわりと舞い降りてきた楓を肩に携えながら頷いた。
「はい。師範もどうかお気を付けて、見た先が変わらなければ鬼は出ないはずですが。では後ほどまたここで」
実弥が頷き返してくれたことを確認すると、風音は空に楓を解き放ち夜の街を駆け出した。
やはり街中はどこもかしこも異変らしい異変はなく……酔っ払いやガラの悪い男たちが点在している以外は穏やかなものである。
「鬼……いない方がいいけれど、刀鍛冶の里の件から鬼が一斉に居なくなるのは不気味。うーん、まだ先を見る許可はおりないし……勝手に見たら怒られちゃうだろうから見れない」
独り言を呟きながら横路地や垣根と垣根の間までくまなく探していると、風音の周りが徐々に異変に包まれてきた。
(酔っ払った人とか怖そうな男の人に囲まれつつある。……実弥君の教え其の参、男に囲まれそうになりゃ、すぐその場を離れろ。着いてくるようなら遠慮する必要ねェ……でも暴力はよくないよね)
鬼殺隊に関することで先を見ることは禁じられているが、こう言った場合は除外されるはず。
間違っていないであろう推論を実行すべく、手頃な一番近くにいるガラの悪い男の先をこっそり盗み見させていただいた。
(君の連れが暴漢に襲われた。酷い怪我を負っているから着いてきてくれ……かぁ。下弦の鬼なら一瞬で倒しちゃう実弥君が暴漢相手に負けるわけないのにね)
ちなみに見れる限りのどの未来でも男に自分が着いていく姿はなく……当たり前の行動なのに風音は誇らしげな顔で大きく息をついた。