第18章 境内と家族
「絶対どうにかしてやる。俺が絶対どうにかしてやるからもう泣くな。これ以上鬼に大切なもん奪わせねェ。…… 風音、お前他にもまだ俺に言ってねェことあるだろ?」
自分の死に顔を見るのは辛く耐え難いものに違いないが、実弥にはどうしても風音の取り乱し具合からそれだけが原因とは思えなかった。
自分のことに関しては未だにどうも関心が薄いからだ。
自分の傷はいつも後回し、危険があると分かっていても上弦の鬼が出現する任務地へ旅立つ。
鬼の頸を斬るためならば毒をくらうと分かっていようが、切り刻まれると分かっていようが突っ込んでいく少女だ。
そんな風音が実弥の心を想っているとしても、自分が犠牲になることをここまで頑なに隠すはずがない。
しかも実弥の言葉に体を震わせたので、実弥の予測は確信に変わった。
「玄弥も……殺られんだろ?」
もう風音に隠し通す手立てはない。
例え返事をしなかったとしても実弥は確信を得てしまっているから。
力なくダラりと垂らした腕を実弥の胸元に移動させ、襟元を強く握り締めた。
「うん……繰り返し見たのは僅かな時間……実弥君が私たちの亡骸を前にするところから少し前だけだから……他のことはまだ分からない。でも……一緒に戦ってた悲鳴嶼さんや時透さんも酷い怪我してた。まだ……何も望む未来を見れてない」
震える声は小さく、体を寄り添わせているからこそ聞こえるほどのものである。
風音自身が自身の死に顔を目の当たりにした上に、嫌われ役に徹してまで守ろうとしている実弥の最愛の弟の死に目を、何度も何度も目の当たりにした風音の心の痛みが伝わる声音。
実弥の胸に渦巻くのは鬼に対する果てなき憎悪と、鬼狩りに身を投じたが故に散りゆこうとしている風音たちに対する後悔や謝罪だった。
無理矢理にでも鬼殺隊から抜けさせていれば、もっと話し合い鬼殺とは無縁の生活をさせてやれていればという後悔。
未来の自分が守ってやれなかったことに対する謝罪。
しかしいくら過去に後悔し、起きていない未来に悲しんだとて現実は優しいもので満たされるわけではない。
「分かった。とりあえず今日はもう見んな。ちょうどアイツらもいることだ、そんなクソみてェな未来にならねェよう手立て考えるから、お前はちょっと休んどけ」