第18章 境内と家族
「分かってるけど……怖い。先を何度見ても変わらなかったらって思うと怖い……いなくなって欲しくない、いなくなりたくない。実弥君と……たくさんお話したいし、触れていたい。実弥君の笑顔をたくさん見たい……」
瞼が再び強く閉じられ実弥の姿を映さなくなってしまった。
今の風音の言葉だけでは明確なことは分からない。
だが以前に杏寿郎の壮絶な先を見た時は本人の前で取り乱し事実を話していたことを考えると、恐らく実弥の身に何か降りかかるのではないのだと分かる。
(となると風音自身か……玄弥か?)
目測を立て今にも崩れ落ちそうな体を抱き寄せ体をさすってやり、落ち着くまでそのまま待ってやることにした。
ところが数分経っても落ち着く様子がない。
そうなると実弥を襲うのは嫌な予感。
「なァ、まさかとは思うがお前……何回も先を見てんじゃねェだろうなァ?」
「…………」
返ってきたのは無言。
嘘を付けない風音なりの必死の返答なのだろうが、干からびてしまうのではと思うほどに涙を流し続ける風音の無謀な行動に、実弥の頬の血管がうっすらとピクリ。
(はァあ……落ち着けェ、怒鳴っちまうのはさすがに良くねぇ。だかこのままの状態はもっと良くねェ……よなァ)
怒鳴らず泣き止ませ、更に無謀な行動を止めさせる方法はないかと必死に考えた結果。
風音の脇に手を差し入れ、勢いよく抱え上げた。
するとやはり風音は驚き目を見開き、涙を瞬時に引っ込めた。
「やっと泣き止んだ。なァ、風音。トラウマなっちまうようなもんを一人で何回も見てくれんな。柱が何のためにいると思ってやがる。一剣士だけに辛ェもん背負わせるためにいんじゃねんだよ。どんな凄惨でやりきれねェもんでも俺を信じて話せ。絶対どうにかしてやる」
「……上弦の壱との戦いで私は死にます」
「おまっ……」
なんてモンを繰り返し見てやがる
と飛び出しそうだった言葉をどうにか飲み込む。
切り替えの早さや言葉は衝撃的だったが、ようやく話す気になった風音が再びしまい込んでしまわないよう、抱え上げられプラプラ揺れる体を下ろしてやり抱きすくめた。