第18章 境内と家族
「冨岡……テメェ犬が……いや、今はどうでもいい。風音はどうしてェんだァ?そいつと一緒に暮らしてェのか?」
未だにビクビク怯える義勇は実弥から適当にあしらわれてしまったが、そんなことは気にならないようで、一番安全だと判断した天元の後ろに隠れた。
その様子を穏やかな表情見つめた後、思いもよらぬ言葉を掛けてくれた実弥を振り返って見つめる。
「暮らせるなら暮らしたい。こうして懐いてくれるの可愛いって思うし、たくさんの尊く優しく大切に思える命と一緒に過ごしたいなって思う……だけどね、任務がある以上、この子に寂しい思いや我慢を強いてしまうでしょ?それは可哀想だよ」
しがみついて離れないイヌの頭を撫でながら、ほんの少し寂しそうにする風音の大きくも小さな願い。
あまり願いを言わない風音の願いを叶えてやりたくて、実弥は皆が見守る中、風音の頭をポンと撫でて笑みを向けた。
「とりあえず先を見てみっか!迎えるための手立てが見つかるかもしんねェだろ?それにお前は鬼に殺されねェって俺と約束してんだ。最後まで責任を果たす……ってのは出来んだからなァ」
まだどうなるかは分からない。
任務状況によっては里子に出さなくてはならなくなるが、初めから諦めなくていいよと実弥が言ってくれた。
どうにか願いを叶えようとしてくれる実弥の気持ちが嬉しく、イヌを胸に携えたまま実弥に飛び付き、首筋に頬を擦り寄せてから皆をくるりと見回した。
「ありがとう、実弥君!そうと決まれば……先にお夕飯の準備を始めなきゃ!村上さん、お買い物ありがとうございます。よければ皆さんも一緒にどうですか?何か実弥君にご用事ですよね?ご飯一緒に食べながらお話しなんていかがでしょう?」
ふわりと笑みを浮かべた風音の言葉に各々がここに来た用事を思い出し、それぞれ顔を見合わせて頷き合う。
「よし、乗った!こんなこともあろうかと、俺様は食材と酒を持参してるんだぜ?ほれ、見てみろ!」
意気揚々と立ち上がった天元が背を向けると、そこには大きな鞄が背負われており、隙間から野菜がはみ出していた。