第18章 境内と家族
名前を呼ばれた気がした。
それは風音だけでなく実弥も同様だったようで、二人して門の方向に視線を動かす。
すると目に映ったのは悲しい表情をした無一郎がこちらに走りよってきている光景で、声を出す余裕のある実弥が無一郎へと声をかけた。
「時透、お前まで泣きそうな顔してどうした……って、うおっ?!」
走る勢いほぼそのままに無一郎は二人……と一匹に覆い被さる形で抱きついてきた。
何事かと目を白黒させる風音もようやく言葉を発する。
「どうしましたか?!時透さん、何か悲しいことがあったのですか?私でよければ……」
「ごめんね、いつでも来ていいよって言ってくれてたのに……今日まで俺はここに来なかった。亡くなったって言うカブトムシ……シナだったっけ?あの時の子でしょ?皆で待ってるって言ってくれてたのに……間に合わなくてごめんね」
あの時…… 風音が鬼殺隊に入隊してすぐの頃だ。
シナを偶然迎え入れることとなり、その後に金魚たちを迎え入れ、その帰りに無一郎と街中でばったり遭遇した。
宿屋の部屋に戻り全員の名前を決め、無一郎が去る時に風音が言った言葉のことを言っているのだろう。
「時透さんが謝罪されることなんて……何もありません。こうして会いにきてくれました。それだけで私も実弥君も……シナ君も喜んでます。きっとここらへんでシナ君は時透さんにペコッと頭を下げているはずです」
犬を抱えていた片方の手を自分たちの頭上に掲げ、くるりと円を描いた。
恐らくそこらへんにシナがいる……のだろう。
「だとよ。あぁ……時透まで泣いちまってんじゃねェかァ」
風音と無一郎と同じく頭上を見上げてから二人に視線を戻すと、二人がポロポロと涙を流している姿が目に入る。
鬼殺隊に入るより遥か昔。
下の弟や妹たちが数人で一斉に泣いてしまった時の記憶が実弥の脳内に映し出され、その時の光景と似た今の状況に苦笑いを零した。
「はァ……まァいいわ。泣いとけ泣いとけ。お前らが泣き止むまでこうしててやるからよ」
「そう?実弥ちゃん、俺も悲しいから慰めてよ。冨岡も慰めてもらっとけ」
「俺は遠慮しておく」
『え?』
二人まとめて抱き締めてやった実弥の背にゴツい腕が回された。