第18章 境内と家族
「俺たちが今入ってしまえば、不死川が柊木から離れてしまうかもしれない。何があったのかは知らんが、柊木が涙を流しているのならば引き離してやるのは可哀想だろう」
と、小芭内に引き止められて早数分。
村上たちは入る機会を見失って風音が泣き止むのを待っている状況だ。
「伊黒さんの言う通り、悲しんでる風音ちゃんから不死川さんを引き離すのは可哀想だわ。でもどうして悲しんでいるの?」
「大切に育てていたカブトムシがつい先ほど亡くなってしまったんです。寿命らしいのですが、柊木さんの悲しみは深いようでして……なんでも風柱様との繋がりを繋げてくれた子らしいんです」
友である小芭内であっても実弥から詳しく聞いていないので分からないが、繋がりを繋げ続けたということは、実弥と風音の縁を結び続ける要因となった一つなのだろうとなんとなく分かる。
「柊木は様々なことで思い悩むことが多かったからな。不死川に迷惑がかかるならば離れなくてはと考え、実際に行動に移そうとしたのだろう。それを引き止めるのにカブトムシが一役買った……のではないか?」
「そうなのね……そんな子が亡くなったなら悲しんじゃうわよね。伊黒さん、私たちは急ぎではないですし、今日のところは帰りますか?痣のことで少しお話しをと思っていただけですし。また日を改めて……」
「伊黒さん、甘露寺さん。どうしたの?不死川さんか風音ちゃんに用事があるんじゃないんですか?」
話の流れから実弥たちに引き止められているであろう村上を置いて、また日を改めようか……と悩んでいる所へ、蜜璃と同じく痣者となった者の声が聞こえた。
無事に記憶を取り戻し年相応の少年の表情をしている無一郎だ。
そんな無一郎は小芭内や蜜璃、そして隠が実弥の屋敷の門の前で佇んでいる状況に首を傾げキョトンとしている。
「無一郎君?!えっと…… 風音ちゃんたちが可愛がっていたカブトムシが亡くなっちゃってね。不死川さんが風音ちゃんを慰めて……あ、あれ?!無一郎君?!」
気が付けば無一郎は屋敷内へと足を踏み入れ、実弥と風音がいる場所へと全力で駆けていっていた。