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涼風の残響【鬼滅の刃】

第18章 境内と家族


村上が涙ながらに二人に頭を上げさせ商店が立ち並ぶ街へと走り去った後、風音と実弥はシナを庭の隅に埋めて小さな小さな墓を作ってやった。

先ほどよりは落ち着いているが、やはり風音の頬には涙が伝っており、どうしようもなく実弥の胸を締め付ける。

「……今は俺以外誰もいねェ。ほら、こっち来い」

手首を軽く引いてやると、一切の抵抗を示さない体は引かれる方向に素直に倒れ、実弥の胸元へとおさまった。

そのまま暫く身を委ねた後、優しく背を撫でてくれている実弥を見上げる。

「実弥君、すごく悲しいけど……私はこれからもたくさんの大切な人たちと過ごしたい。失うのは怖いし悲しいし胸が痛いんだけどね、それは一緒に過ごした時間が幸せだったってことだと思うから。繋がれた縁を切りたくないよ」

離れたくないというように実弥に強くしがみつく風音が何を考えているのか。
その行動自体が物語っていたので、何も問い掛けずに髪に唇を落とした。

「わざわざ風音と縁切るやつなんざいねェって。俺も切るつもりねェしなァ」

「いつも実弥君は私の欲しい言葉をくれる。もう……大丈夫!実弥君も悲しいのに私ばっかり甘えちゃってごめんなさい。ちょっと待ってね」

今度は何を考えているのか分からなかった。
もぞもぞと胸元で動いたかと思えば、実弥から離れて手を広げキリッとした表情で佇んでいるからだ。

「何やってんだァ?んな張り切った顔してよォ……」

「ん?いつも実弥君が私を支えてくれるでしょ?だからね……実弥君が悲しい時は私が支えたいなって。どんと来てくれて大丈夫だよ!胸をお貸しさせていただきます!」

どうやら実弥が胸の中に飛び込んできてくれるのを期待して待っているらしい。

……今は二人きり。
誰も見ていない。
だが年上の男として、師範としての矜持が実弥を戸惑わせている。

「ワフッ」

トン

と実弥の背が暖かな小さな何かに押された。
完全に油断していた実弥の体は前へと倒れ、風音がすかさずその体を抱きとめた。

「実弥君……暖かい。いつも私はこの暖かさに癒され救われてきたの。そんな風に私の温もりが実弥君を癒し、救えたらいいなって思ってる。実弥君の側で支えたい」
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