第18章 境内と家族
一人と一匹が涙を流す風音を慰める光景に、シナたちのお世話係を務めてくれていた隠の瞳にも薄らと涙が浮かび、風音たちの前に跪いて言葉を紡ぐ。
「お、俺も心配してます!正直に言うと今は風柱様の見たことない穏やかな表情に驚いてますけど……それ以上に柊木さんのことが心配です!軽々しく早く元気になって欲しいなんて言えないですが、笑顔を見たいと思います。隠の間でも柊木さんのことはよく話題に上がってるんですよ?」
実弥に励まされイヌに励まされ、隠の人にまで励ましてもらった風音は顔を上げ首を傾げる。
「皆さん、ありがとうございます。その……話題とは?」
涙でグズグズになった風音に笑みを向け……同じく首を傾げている実弥を伺うように視線を向けた後、意を決して口を開いた。
「あ、あの……柊木さんは風柱様の継子とは思えないほどによく笑う子だって!その子と風柱様が可愛がってる子たちならお世話したいって……柊木さん見たさで志願した隠もいたんですよ!」
「あ"ぁ"?!俺のいないとこで……お前ら好き勝手言いやがって!どう見たってコイツは俺の継子だろうがァ!戦う姿見たら一目瞭然だろォ!」
キョトンとする風音をよそに青筋を立てて隠に怒る実弥。
ちなみにイヌは素知らぬ顔で風音の太腿の上に顔を乗せて和んでいる。
隠はと言うと怒る実弥に必死に弁明を述べているところだ。
そんな中で小さく吹き出す声が部屋に零れ落ちた。
「フフッ、風柱様の言う通り私は間違いなく風柱様の継子ですよ?有無を言わさず率先して鬼の頸を取りに行きますから。それにね、私が笑顔でいられるのは風柱様……実弥君が側で笑ってくれているからなんです。私の笑顔の源は実弥君ですよ」
相手が柱だろうが隠だろうが関係ない。
実弥に対する愛情表現の言葉は人や場所関係なく詰まることなくスラスラと飛び出してくる。
こんな状況に実弥は慣れたもの。
頬は僅かに赤く染っているものの、笑顔を覗かせた風音に安堵し再び穏やかな表情に戻って抱きすくめた。
「だとよォ。それよりお前、今日泊まってけ。シナの埋葬終えたら話があんだよ。……コイツの体洗ったのお前だよなァ?」