第18章 境内と家族
それを知っている実弥は笑みを浮かべて風音の頭を撫でシナに視線を落とす。
足が僅かに動いているが、そこから移動するほどの力は残っていないようで、その様子から旅立つ時が近いのだろうと悟った。
「悪ぃなァ……迎える前に言ってやってたらよかった。コイツらは普通にいけば俺たちより先に逝っちまう。それを看取り偲んでやるまでが責任ってやつだァ……」
「分かってたつもりだった……命がある限り終わりを迎えるときが必ず来るんだって。でもね……私、今まで寿命で亡くなる人を看取ったことなかったの。いつの間にか……明日も元気でいてくれるんだって勝手に思い込んでた。鬼殺隊の剣士の癖に……情けない」
剣士として鬼狩りを日常としていると、突然命を奪われる人たちを多く目にしてしまう。
その度に剣士たちは胸を掻きむしりたくなるほどの悲しみや、理不尽に命を奪う鬼に対して憎悪を膨らませる。
突如として生きる者はいつか居なくなってしまうのだと分かっていたのに、当たり前に毎日近くにいたために抜け落ちてしまっていたのだ。
抜け落ち心の準備が出来ていなかったとは言え、天寿を全うしようとしている者を見ないなどあってはならないと、風音は泣き腫らした顔を実弥の胸元から出し、籠の中へと視線を戻した。
「命を繋ぐってこういう事なんだね。共に過ごして得たものを後世に伝えていく……小さな小さな命であっても私にとって大きくて、実弥君との繋がりを繋げてくれた子だった。ありがとう、ゆっくり休んでね」
風音がふわりと体を撫でてやると、それを待っていたかのように動きをピタリと止めてシナは天寿を全うした。
お疲れ様と言ってあげたいのに悲しみが押し寄せ言葉にならず、声を押し殺して項垂れ涙を流す。
初めて天寿を全うしたものを見送った風音の心の痛みが早く癒されますように……神に祈りながら実弥が頭を撫でると、傍らに座っていたイヌがピクリと動き出し、風音の涙を拭うように頬をぺろりと舐めた。
「コイツもお前が心配なんだとよ。今日は泣いて過ごしても構わねェ。けど明日からはまた笑って過ごせ、それがシナにとって何よりの供養になるからなァ」