第3章 能力と剣士
そうして辿り着いたのは数えることすら大変な数の畳が敷き詰められた広い部屋が見える美しくも広い庭だった。
広過ぎるに加え今から実弥の上官に当たるであろうお館様なる人と会う風音は、所在なさげに縮こまって実弥の隣りで立ち尽くしている。
そんな風音の頭に優しく手がポンと置かれた。
「何もお前に対して叱りつけやしねェから心配すんなァ。ただ気をしっかり持っとけ、俺も出来る限りは支えてやる」
手の温かさに和んだものの実弥の言葉に緊張が走った。
何に対して気をしっかり持っていればいいのか……疑問を呈しようとしたとき、部屋の奥にある襖が静かに開き、綺麗な幼子二人に誘われた男性が姿を現した。
それと同時に実弥が地面に跪いたので、風音も慌てて正座をして実弥と同じように頭を下げる。
「実弥、昨日に続いて赴いてもらって悪かったね。その子が実弥の話していた柊木風音かな?」
声に反応して実弥が顔をあげるのを確認して、風音も何故だかフワフワする気持ちになりながら顔を上げてお館様へと視線を巡らせた。
(お顔に傷……痣……かな?お薬いっぱい作ってきたけど、見たことのない症状。痛くないのかな?私で何かお薬作れるならいいのだけど……)
優しい雰囲気と声を持つお館様の顔は見たことのない痣が片目までを覆い尽くしており、覆われている方の目は光を映していないように見える。
そんな事を一人考えていると話しは先へ先へと進んでおり、気が付けば自分に二人の視線が注がれていた。
「あ……失礼いたしました。先日柱である実弥……不死川さんに助けていただいた柊木風音です。鬼殺隊でもない私をお招きいただき、ありがとうございます」
思ってもみなかった丁寧でしっかりした風音の言葉遣いに実弥が目を見開いて驚いていると、お館様はクスリと優しく笑いを零し風音に言葉を掛けた。
「こちらこそいきなり呼び立ててしまってすまなかった。実弥から聞いたのだけど、風音は薬を沢山作りたいが為に呼吸を使いこなしているとか。それはお父上に教えてもらった……で間違いないね?」
引き続き自分が返答していいのか分からず実弥を伺うと、小さく頷き返してくれたのでお館様に視線を戻して首を縦に振った。