第18章 境内と家族
その視線に気付いた実弥は笑顔のまま首を傾げ…… 風音悶絶。
「実弥君の笑顔って眼福過ぎてどうしたらいいのか分かんなくなる……どうしたらいい?」
「んだよ、それ……まァ、そうだなァ。ほら、コイツに抱き着いとけ。野良のはずなのに石鹸の匂いすんだよ。毛も柔けぇしなァ」
風音の対応をイヌに任せるため、両手で抱きかかえて風音の胸の中へとおさめてやる。
その際に実弥の鼻腔をくすぐったのは微かな石鹸の香りと、やけに清潔感のある柔らかな白い毛。
飼いイヌならば飼い主なしにこんな場所にいるわけがないので野良には違いないのだろうが、まるで風音や実弥に会うことを想定されたように綺麗なイヌに首を傾げる。
実弥と同じ疑問を風音も感じたようで、清潔にされた毛に顔をうずめながらも同じく首を傾げた。
「確かにいい匂いだし毛がふわふわだよね。まるで私たちに連れ帰ってほしいって……誰かが……準備したような……気がしてきたんだけど」
「誰かって……んなの隠のヤツらしか……えぇ、どうすんだよォ……金魚やカブトムシならまだしも……任務で家空ける時、世話してもらうっつっても大事になるじゃねェか」
風音に抱き着く形で抱っこされた白いふわふわは二人の気持ちを知るわけもなく、未だに口の周りをぺろぺろしながら大人しくしている。
「うーん……お世話は兎も角として、置いて帰っちゃうと凄い罪悪感に見舞われそうだよ?でも実弥君の言う通り、私たちだけじゃちゃんとお世話してあげられないよね。どうする?」
二人で顔を見合せ暫く逡巡……
明日の命の保証のない二人にとって、命あるものを迎え入れるのは容易ではない。
だからと言ってやけに大人しく小綺麗にされたふわふわを置いていくのも罪悪感に駆られてしまう……
悩み過ぎて頭を掻き毟った実弥は立ち上がり、イヌを風音の腕の中から自分の腕の中に移動させた。
「飼えねェなら飼い主見付けるしかねぇな。とりあえず俺ん家で預かって、任務の時は隠のヤツに面倒見させる。そんくらいやらせてもバチ当たんねェだろ。張り紙しときゃあ、そのうち飼いてぇって人見つかるはずだ」