第18章 境内と家族
「大丈夫!うわぁ、可愛いなぁ。実弥君に懐いてるみたいだけど、何回かこの子と会ってたの?」
風音が手を伸ばし首元を撫でても嫌がる素振りや怖がる素振りは一切なく、何なら気持ちよさそうに目を細め和み出したので、風音の体を支える必要なしと判断した実弥もイヌの前にしゃがみ頭を撫でてやる。
「あぁ、最近はあんま来てなかったが、お前が胡蝶んとこで眠りこけてる時に何回かなァ。たまたまそん時に隠の奴らに見られたんだ。今俺ん家でアイツらの世話してくれてる奴が、まだここにイヌがいるって教えてくれたんで、お前をここに連れて来た」
どうやら実弥は動物好きだと隠の間で広まっているらしい。
そしてどこからか実弥が自邸にて金魚たちを育てているとの情報を得て、可愛がっている金魚たちならばとお世話係に隠が名乗りを上げてくれたようだ。
「そうだったんだ!ありがとう、この子に会わせてくれて。あぁ……可愛いなぁ。すっごく癒される。ねぇ、私も一緒にご飯あげたい!」
目をキラキラさせ、今朝蝶屋敷でいただいた握り飯の入った鞄を前に移動させ実弥の許可を待つ。
握り飯が欲しくて大人しく実弥を見つめるイヌ。
握り飯をあげたくて大人しく実弥を見つめる風音。
利害関係が見事に一致した二人に見つめられたとなれば、それを実弥が無下に出来るはずもない。
そもそも風音を喜ばせたくてここに立ち寄ったので、喜ぶことは率先してやらせてやる。
「構わねェよ。握り飯三つあったよなァ?俺らで分ければちょうどいいだろ。……その代わり半分ずつあげるぞ。俺もコイツに食わせてやりてェからなァ」
「うん!ねぇ、私が先にあげてもいい?その間に実弥君にはおにぎりを食べててもらって、食べ終わったら交代!」
風音が案を出している間、既に実弥の手は鞄へと伸びており、さすが風柱と言わざるを得ない速さで握り飯の入った籠を手に取っていた。
「おう、んなら俺が先に食べるから風音が先にやってくれ。……の前に場所移動すんぞ、賽銭箱の横にちょうどいい段差があるからなァ」
バチは当たらないのだろうか……と思いつつも、尊い命を持つイヌへご飯をあげるならば許してもらえるはず。
心の中でそう納得させ、風音は一度神へと頭を下げて実弥と共に賽銭箱の隣りに腰を下ろした。