第17章 芸術と嘘吐き
暫しの沈黙……
張り詰めた空気。
気まずい雰囲気。
目尻を吊り上げる実弥と目尻を下げ縮こまる玄弥。
この場の雰囲気、二人の心情はともかくとして、風音にはしなくてはならない事がある。
「玄弥さん、傷の手当てをしましょう!お顔も腕も足もたくさん傷がありますし!さ、ここに座ってください。実弥君も。もし地盤沈下とか起きたら私と玄弥さんを助けてね!」
地盤沈下が起きるような場所に刀鍛冶の里があるわけもない。
しかし珍しく笑顔で任務を終えた風音に当たり散らすなど出来るはずもなく、二人に背を向ける形で大人しく地面に腰を落ち着けた。
「地面が落ちるわけねェだろ。馬鹿なこと言ってる暇あんなら、さっさと手当て終わらせねェか」
素っ気ない実弥の言葉や態度に笑みを零し、風音は未だに身を縮こませて立ち尽くしている玄弥を促して腰を下ろした。
「確かに地面は落ちないんだけどね。さて、玄弥さん!とりあえず上の服を全て脱いで下さい!」
「え?!ここで?!いや……さすがにそれは……」
顔を真っ赤にして恥ずかしがる玄弥に風音はニコリ。
「ここで、です!大丈夫、実弥君の怪我の手当ても同じようにしましたから!服を着てたらちゃんと処置出来ないでしょう?恥ずかしいなら目を瞑ってて下さい!私が脱がせて差し上げ……」
「だァアーー!男が服脱ぐくらいどうってことねェだろォ!後詰まってんだよ、さっさと脱ぎやがれ!」
まるで風音から貞操を守るかのように隊服を握りしめていた玄弥の前に、血管を首元にまで侵食させた実弥が立ち塞がった。
「いや……だって兄貴、女の子の前で」
「俺に弟なんていねェ!グチグチくだらねェことほざき続けんなら俺がひん剥いてやるよ!」
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と玄弥の隊服は実弥によってひん剥かれてしまった。
倒れるのではと思うほどに赤面した玄弥と、玄弥の隊服をほっぽり出し定位置に戻った実弥。
風音から見れば微笑ましい兄弟のやり取りであっても、今笑ってしまえば実弥が機嫌を損ねてどこかへ行ってしまう。
そうならないために笑いをぐっと堪え、鞄の中に手を突っ込んで必要な物を次々と取り出した。